青い鳥 -幸せの使い-
「ルッテンベルグの獅子・・・」「そう、人間と魔族の間にできた者達で編成された部隊よ。コンラッドもいるの」
「・・・」
「セラ、どうかした?」
「いいえ、なんでもないです、ツェリ様。ただ・・・・コンラッド、大丈夫かなって」
「心配?」
「コンラッドなら大丈夫だと思います。幼馴染の私がそう思うんですから」
様子を見てきます、とセラは言って兵士たちが集まる場所に行った。
「コンラッド」
「セラ・・・どうした?」
「いえ、あの・・・・・」
「ヨザックか。呼ぼうか?」
「あっうん・・・お願い」
セラの幼馴染のコンラッドはすぐに一人の兵士を呼びに行った。
彼はセラを見ると笑顔を見せた。
「セラ、どうした?」
「ヨザ、あのね・・・・」
「セラフィールド、何故ここにいる」
「・・・・・グウェンダル・・・・いちゃいけないの?」
「純粋な魔族がいるべきところではないだろう」
「グウェン、コンラッドが先陣に向かうのよ。何か言葉でもかけてあげたらどう?それともあなたの心は氷で凍っているわけ?なんだったら私が体中全部凍らせてあげるわ」
それだけを一言で言い切ってセラはグウェンダルをにらむ。
さすがのグウェンダルも年下の幼馴染のことは苦手なのか、すぐにそこから離れて行った。
セラは溜息をついてヨザックを見た。
「ごめんなさい。それでね、あの・・・・先陣に行くって聞いたから」
「あぁ。なるほどね」
「ヨザ、気をつけてね。私、あなたたちのことを信じてる。絶対に戻ってくるって」
「そうして、セラ」
「あとね・・・・私はあなたが人と魔族の間に生まれた子だとしてもあなたのこと愛してるわ」
「セラ・・」
ヨザックは小さく笑うとそっとセラの頬に口付けた。
「絶対に戻ってくる」
耳元でそう囁き、ヨザックは仲間達のもとに戻って行く。
セラはその背中にむかって小さくうなずいた。
「シュピレーヌ卿セラフィールド様。フォンカーベルニコフ卿アニシナ様が呼んでおりました」
「ありがとう」
セラはアニシナの部屋にむかった。
「アニシナ様、お呼びでございますか」
「セラ、私とあなたは幼馴染でしょう。様付けはよしてくださいと言ったはずです」
「でも・・・・・」
「でももくそもありません。これからはやめてください」
「・・・・・・うん」
「それはそうと、ルッテンベルグの獅子たちが向かったそうですね」
「うん。心配だな、コンラッドもヨザも」
アニシナは小さく笑みを浮かべてセラを招き寄せた。
そんなアニシナの前に不思議な形をした機械がある。
「これは私が作った発明品です。まだ名前はありませんが、これに魔力を流し込むことで遠く離れた土地の映像を見ることができます。私がやってみたところ中々に上手くいきました」
「・・・・」
「やってみませんか、セラ。恋人のことが気になるのでしょう?」
セラはフッと微笑んで、首を振った。
アニシナは驚いたように目を瞠る。
「ヨザックは信じてくれ、と言ったから信じてるわ。コンラッドだって他の皆だって絶対に戻ってくる。私はいいの・・・ヨザもコンラッドも期待を裏切らないわ」
「わかりました。ではこの機会の"もにたあ"はグウェンダルに任せましょう」
「・・・・・」
セラはその後すぐアニシナの部屋を出た。
ルッテンベルグの獅子と呼ばれる兵士たちが出て行った門のそばに立ち尽くす。
ギュっと胸の前で手を組み、遠く彼方を見つめた。
「ヨザック、どうか無事で戻ってきて・・・・・・・」
「セラ、夕餉の時間ですよ。中に入らないのですか」
「アニシナ・・・あぁ、もうそんな時間なの」
「ずっと立っていましたね。でもまだ戻ってくるには早すぎると思いますが」
「・・・・信じていると言っても、不安で仕方がないのです。もしもヨザックが戻ってこなかったら・・・」
アニシナはそっとセラの肩を抱き寄せた。
「大丈夫。彼らなら」
「アニシナ・・・」
「さっ、食べに行きましょう」
「・・・・・うん」
それから数日後のことである。
「ルッテンベルグの獅子が・・・全滅?」
「そんな・・」
「これはセラには伝えられませんね」
アニシナは窓の側に近寄って、今日も門にそばに立つセラの後姿を見た。
セラは夜も寝ることをせず、ずっとあの場所に立っているのだ。
ただ愛しい恋人の帰りを待つためだけに。
「セラ・・・・」
門の彼方を見つめていたセラはふと、小さな鳥が飛んでいるのを見つけた。
淡い青色をしているその鳥はセラのそばに飛んでくると首をかしげて小さく鳴いた。
「いらっしゃい」
セラが手を差し伸べると鳥はセラの手に飛び乗った。
「あなたも一緒にヨザックの帰りを待ってくれるの?」
セラはじっと彼方を見た。ただ一人の恋人が帰ってくることを信じて。
ふっと誰かの声が聞こえたような気がした。
「ヨザ・・・・?」
そのときである。
手に乗っていた青い鳥が光ったかと想うとその場にいた者たちが眼を覆うほどの光があたりを照らした。
セラは腕で眼をかばい、光が収まるまで顔をそらしていた。
「セラ・・・・?」
聞きなれた声にセラはハッとして顔をむける。
そこに傷だらけのコンラッドとヨザックがいた。
セラの瞳から涙が溢れる。
「ヨザ・・・コンラッド」
「ここは・・血盟城・・・・・?」
セラは二人に飛びついていた。
コンラッドもヨザックも驚いて、セラを受け止めそこねる。
三人はそろって地面に倒れた。
「セラ・・・・」
「おか、お帰り・・・・・・」
「・・・・ただいま」
ヨザックが強くセラを抱きしめた。コンラッドはくしゃくしゃとセラの頭をかき回す。
ツェリの声が聞こえた。アニシナやグウェンダルの駆けてくる足音も聞こえる。
セラはふとあの青い鳥がいなくなっていることに気がついた。そしてその鳥に見覚えがないことも。
微笑んだセラは心内でそっと想った。
名をあげよう。小さな鳥に。
"幸福の青い鳥"と・・・・・