夢
その人は実際にいるのかもしれない。いないのかもしれない。どちらなのか、わからない。
私たちが会えるのは夢の中だけ・・・・・
ほんの少しだけの、逢瀬・・・
私、は人には言えない秘密を持っている。
それは・・・・夢の中にだけ出てくる素敵な恋人のこと。
「、あんたに客」
「いらない」
「なによぉ、隣のクラスで一番かっこいい人だよ?」
「残念だが恋人いるし」
「まじ?!誰々?」
友人たちは興味津々といった様子でたずねてくるが、私は一切応えないことにしている。
きっと応えたとしても笑われるからだ。
―――夢の中だけの恋人なんて
私がその人に会ったのはほんの一ヶ月前のこと。
ちょうどテスト期間中で夜更かしして勉強している時だった。
「ふわぁ・・・・・あ。あっもう三時?速いなぁ・・・」
机の上にあったライトを消して、私は伸びをする。
時計の文字は三時になっていた。早く寝なければ明日起きられない。
ベッドに横になるのも面倒なくらい疲れていたためか、私はそのままクッションを枕に眠ってしまった。
「ん・・・・・・」
なんとなく眼を開けてみると真っ暗な世界に私はいた。どうせ夢だろうと思い、私は歩き出す。
中々しっかりとした足取りだった。まさか夢じゃないなんてことはないだろう。
やがて私の目の前に門が見えてきた。入ってもなにもない。
向こう側も同じような感じである。
「ここ・・・・どこ?」
「何故、人がここに」
驚いたような声音が背後から聞こえてきた。私が振り向くとそこに変わった服を着た人がいた。
紫苑色の瞳は驚くほど優しい。
「あなた、誰?」
「それはこちらの台詞です。あなたこそ誰ですか」
「私は、。ここ、夢の中よね」
「夢・・・・あぁ、なるほど。あなたは夢を渡ってきたのですね」
その人は私に座るようすすめた。
私は階段になっているところに腰掛ける。
その人は私の隣に座った。
「私は太裳、と申します。ここは私達が住む世界、あなたが住む世界とは違っているため、異界とも呼ばれます」
「太裳?」
「はい」
にこっと太裳は笑った。
私は顔が赤くなるのを感じた。
「あっ、あの・・・・えと、どうやったら私は帰れるのでしょう」
「自然に目覚めれば帰れると思いますよ」
「そっそうですか、ありがとうございます」
ふと気がつけば周りの景色が揺らめいた気がした。
「あっ・・」
声をあげる間も無く私の意識は目覚めた。
アラームがピッピッピと軽快な音を立てている。
私はそれを止めて、太裳と名乗った青年のことを思い出した。
思い出すたびに胸が苦しくなる。もしかして、これが"一目ぼれ"というやつなのだろうか。
その日の授業はまともに聞いていられなかった。
「あぁ・・・最悪・・・」
私は溜息をついて机にむかった。
が、しばらく経たないうちに眠くなってくる。
私は重力に負けて首を垂らした。
また同じところに立っていた。
ふと見れば太裳がいる。
「太裳・・・・・・」
「さん・・・・今夜もきてくれたんですね」
太裳の笑顔から彼もまた私と同じ気持ちだったことを感じた。
「はい」
そして私達は恋人になった。ただ夢の中で会って、その日あったことを話すだけなのだけど、私にとってはかけがえのない時間だ。
「今日、テストで成績の順位が上がったんだ。先生にも頑張っているな、って褒められたの!」
「それは・・・は頑張り屋さんなんですね」
「えへへっ。太裳のほうは何かあった?」
「はい。私が仕える方の孫、なのですが・・昌浩様とおっしゃいまして、まだほんの子供ながらに強い力を持っておられるのです。今日など式を作って遊んでおられましたよ」
「へぇ、すごいねその子。私も会ってみたいな」
「は・・・・私のことだけを見ていてください」
太裳は私の頬に手を当てて至近距離で囁いた。
「//////」
「あなたのこと、愛してますよ」
「私も・・・・・太裳のこと、大好き」
夢の中だけでもいい
こんなに幸せになれるのだから
二人で紡ぐ夢は淡い紫苑の色