それはなんて美しいのだろう。
紫はゆっくりと掌を月へとむけた。
紫の全身を包み込むかのように月光は落ちている。

「月読・・・」

一人じゃ寂しいだろう。
そう思うから満月の夜はいつも起きている。
月読はたくさんの愛を紫にくれたから。
愛を知らなかった紫にたくさん教えてくれたから。
だから今度は・・・・

「私があなたに何かを教える番だね」

神代の昔から生きているのだから今更教わることなどないだろう。
でも紫は・・・

「貴方の望むものを・・・・・月読」

差し出そう、と。
あなたの微笑が私の力になるのならば、私の微笑みは貴方の力になれる?

「あなたを愛してる・・・・・」

愛されて、愛して・・・・。今の紫は幸せだった。

「あなたに出会えてよかった。月読、ありがとう」

そばにいることはできないけれど、それでもあなたの心は感じているから。
ゆっくりと紫の口から歌がこぼれだした。
それは月を讃える歌。夜を明るく照らす、月を想う歌。


ゆっくりと天馬を駆りながら月読は下界を見下ろした。
その耳に届くのは優しい歌。

「紫・・・」

愛しいゆえに手に入れることが叶わない人間。
人であるがゆえに月読を求めてしまう彼女。
そして神であるがゆえに、否、自分自身だからこそ彼女を求める月読。

「愛しているよ。月の想い人である君に最高の幸せを・・・・」





想うがゆえに愛し合えない。
愛し合うが故に結ばれない。
なら・・・・・ほんの少しでもいい。

あなたの顔が見たい・・・・・・。