忠誠を貴方に
私はあの方に作られた一番はじめの天使

あの方の寵愛を受ける代わり、裏切ることは許されない

たとえ、友を裏切ることになろうとも・・・・







「ゼウス様・・・・上位天使の中から六聖獣を選ぶとお聞きしましたが」

「ユウラか・・・もっとこちらへ」


ゆっくりとユウラは首を振った。彼の背後には神官たちがいるのである。

彼は神官たちに目をむけ、彼らを退出させる。


「さぁ、ユウラ」


ユウラはゆっくりと視線を上に持っていく。

神の座に座る大神ゼウス。ユウラを作った神だ。

ユウラは立ち上がり、ゼウスのもとへ近寄っていく。ゼウスの足元にひざまずこうとしたときである。

腰をいきおいよく引かれ、彼の腕の中に納まる。


「ゼウス様!!」

「ユウラ、そこまで私を拒絶するな・・・・・お前は私のものだろう?」


耳元で低く囁かれ、ユウラの体が震える。

細い指先がユウラの、形のよい顎をなぞっていく。


「ユウラ・・・・」

「はい、ゼウス様」


小さく開かれた唇に指が触れた。

ゼウスはユウラの目にたまった涙に気がつく。


「どうした?」

「私は賛成できません・・・・六聖獣のことに関して」

「何故?」

「争いの元となるでしょう。それでなくとも今は上位天使、中位天使、下位天使と三つに分けられ、下の天使が上の天使をねたむという状態になっています。この楽園に争いがもたらされるのですよ」

「ユウラは私を愛しているか?」

「・・・・・私はあなたに作られました。私の主はあなただけです。ですが・・・・」

「ですが?」

「・・・・・」


ユウラは唇をかみ締めると首を振った。

ゼウスは軽く笑声をこぼすと、ユウラの体を解放した。


「まだ、私にはお前が必要だ。これからもそばにいてくれるのであろう?」


ユウラはゼウスの前に膝をついた。

長い銀の髪は広がる。


「あなたに永遠の忠誠を・・・ゼウス様」


神殿から退出したユウラは仲間たちの元にむかっていた。


「ユウラ――っ」

「ガイ」


己を呼ぶ声に振り向けば一人の正天使が走りよってくる。

ユウラの友の一人ガイだ。

彼は六聖獣の候補になっていたはずである。本人はまだ知らないが・・・・


「どこに行くんだ?」

「ゴウやユダたちのところへ。お茶に招待されているのですよ。ガイは?」

「オレも招待されてるんだ。一緒に行こうぜ」

「えぇ」


ガイは明るい天使である。それが長所であり短所でもあった。

ユウラは何度かガイに慰められたことがある。

動物にも好かれる彼が六聖獣ならいいだろう。

ふとユウラは目の前を歩く二人を見つけた。


「ルカ、レイ」

「ユウラ」

「ガイも」


前を歩いていた青年たちはユウラの声に振り向いた。

ユウラの幼馴染であるルカとレイだ。彼らもまた六聖獣候補である。


「レイ、今日はお茶のご招待ありがとうございます。私など・・・」

「いいんですよ、ユウラの横笛を聞きたいんですから」

「そうだと思って笛も持ってきました」

「ユウラの好きなフォーの実も見つけてきてある」

「こんなにたくさん!どこで採ったんですか?これ、中々見つからないのに」


ユウラは嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます」

「じゃぁ先を急ぎましょうか。ゴウたちも待ちわびているはずです」

「そうですね」


「おーユウラ」

「こんにちは、ゴウ。シンにユダも」

「ユウラ、今日は珍しく髪を結っていないのですね」

「あっ・・・」


シンに言われてユウラは頭に手をやった。

普段ならば軽く結い上げている髪は背で音を立てている。


「変・・・でしょうか」

「そんなことはない。むしろそちらのほうがいいと思うが?」


ユダの言葉にその場にいた全員がうなずく。

ユウラは軽くはにかんだように笑った。


「じゃぁこれからはほどいてきますね」


そしてにぎやかな茶会がはじまった。

ユウラを除く六人は全員聖獣候補に上がっている。

ユウラは女神から与えられた力によって彼らの未来を視てしまった。


「あっ・・・」


額を押さえて立ち上がったユウラを誰もが不思議そうに見た。


「ユウラ?」

「っ・・・・」


足から力が抜けユウラが崩れ落ちる。咄嗟にゴウが腕を伸ばしてユウラの体を受け止めた。


「ユウラっ!!」


ゴウの腕の中でぐったりとしているユウラを全員が心配そうに見つめる。


「・・・・・あっ、ゴウ・・・・」

「ユウラ大丈夫か?」

「・・・はい、なんとか」


ゴウの腕につかまりながらユウラは起き上がる。まだ頭がふらついていた。

先ほど視た光景が目の前をちらつく。





逃げられない






逃げてはいけないのだ。


「ユウラ?」

「すみません、気分が悪いので先に失礼します・・・・」

「えぇそれはかまいませんが、大丈夫ですか?」

「オレ送ってくけど」


ガイの申し出にユウラは淡く微笑んだ。


「大丈夫です」


そういってユウラは彼らのもとから離れていった。

ふとユウラは足を止めて、六人を切なげな目で見た。










「たとえなにがあったとしても貴方たちは私を友と呼んでくれますか?」










ユウラの問いに六人はすぐにうなずいた。

ユウラは嬉しそうに笑うと翼を広げ飛んで行ってしまった。


「ユウラ・・・・」



ゼウスの住まう宮へ帰り着いたとき、ユウラはそのまま力尽きてしまった。


「ユウラ、大丈夫か」

「ゼウス様・・・・」


ゼウスに声をかけられ、ユウラはうっすらと目を開く。


「何故・・・・何故あなたはこんな運命を作り出したのですか、何故」


何故、とユウラは何度も問う。それにゼウスは答えず、ユウラの華奢な体を抱き上げるとそっと寝台に横たえた。


「ユウラ、私にはお前だけがいればいい」

「ゼウス様・・・・」

「お前は私に忠誠を誓っているだろう?それを裏切るつもりか・・・・」


ユウラの瞳から涙が零れ落ちる。

目を閉じ、硬く唇を結んでユウラは首を振った。

それを視て満足そうにゼウスは笑う。











あなたは残酷だ











その言葉は重ねられた唇によってさえぎられたのであった。