入学式
「うっわー」桜は新しい校舎を見上げて声をあげた。
ピカピカだ。今年からこの銀星学園は校舎を新しくした。
ちょうどいいときに入学できたな、と桜は嬉しく思う。
「驚いたかの」
「はいっ」
桜は傍らの老人を見て、笑顔でうなずいた。この老人、安倍晴明はこの学園の理事である。
そして桜の祖父でもあった。桜の両親が交通事故で亡くなり、引き取り手のいなかった桜は祖父の家に預けられたのだ。
祖父の家と通うはずだった学校はかなりの距離があり、通うのは無理だろうとされた。そのため桜は祖父が理事を務める銀星学園に入ることにしたのだ。
「ありがとう、おじいちゃん」
「こらこら、学園では理事長と呼べといつも言ってあるだろうに」
「はぁい」
「さて、教室に案内しようかの」
「うん」
桜は晴明に連れられて1−Dの教室へむかう。教室は中学棟の2階の一番はしにあった。
まだ少しの生徒しか来ていないようだ。桜は晴明を見上げる。
「ここまでで大丈夫。あとは一人でなんとかできるよ」
「そうか。それじゃぁの・・・・・・と、そうじゃ、学園では決してわしの孫だとばれないように」
「うん、わかった」
桜と晴明はそこで別れた。桜は教室へ入っていく。
教室内には四、五人の生徒がいた。桜は一番前の席だ。後ろには一人の女子生徒が座って本を読んでいた。
「ん?どうした」
「あっううん・・・・・・・・ねぇ、あなたの名前は?私、東宮桜っていうの」
「朽木ルキアという」
「ルキア?呼び捨てでも平気かな」
「あぁ大丈夫だ」
「そう、よかった」
桜は微笑んだ。ルキアもそれにつられるようにして笑う。
ガラッと入り口のドアが開いた。教室でざわめいていた者が静かになった。
黒髪の少年が入ってきた。少年のくせして(何気にひどい)長い髪を一つに結わえている。
「うわぁ・・・・・・綺麗な子だね」
「だな」
「うん」
と桜はきょとんとした。少年は自分の方へくると隣の席へ座った。
桜を見ると、いや睨むとふぃっと目を前に向ける。
「あっ、えと・・・・・ねぇ名前は?隣同士だから教えて欲しいな」
「・・・・・・・・・・神田だ」
「神田?下の名前は」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
神田という少年は黙ってしまった。言いたくはないのだろうか。
桜は困ったように笑うとルキアを見た。ルキアはわずかに苦笑する。
いつの間にか教室には生徒が集まっていた。
「どんな人が担任の先生なのかな」
「さぁ」
「優しい先生だといいね」
「それはいえているな」
ガラッと戸が開いて担任とおぼしき人間が入ってくる。
長く白い髪、少しばかり不健康そうな顔・・・・
「大丈夫なのかな、あの先生・・・・・」
「多分な」
「皆そろっているな。俺はこのクラスの担任になった浮竹だ。担当教科は古典、まだ一年生には関係ないものだがな」
はははは、と笑い浮竹は出席簿を見た。
「全員いるな・・・・・じゃぁ体育館へ行くか。入学式がまだだろう?」
浮竹を先頭に桜たちは体育館へむかう。
ほかのクラスとも途中で合流した。
「さて、新入生、あっそれと在校生」
校長は髪の長い女だった。
「これから新しい学園生活がはじまる。上も下も関係なく楽しく過ごしていくように。私から言うことはそれだけだ」
「・・・・・校長、もう少しまともなお話をお願いします」
「十分マトモだろう?」
「どこがですか・・・・・」
めがねをかけた几帳面そうな女が校長を叱っていた。校長は女の言葉をのらりくらりとかわしている。
在校生達がクスクスと笑いをこぼしているところを見るとどうやら日常茶飯事らしい。
「入学式とはいってもただ在校生たちが新入生に挨拶するだけだ。そんなに固くならんでもいいだろう」
校長は新入生の後ろにいる在校生を見ると笑顔で言った。
「さて交流会をはじめるか」
その言葉に在校生が各々新入生のほうへ歩いてくる。
桜やルキアは少し緊張した。
「はじめまして」
そう笑顔で話しかけてきたのはルキアや桜と対して身長がかわらない女子生徒だった。
「雛森桃です。二年A組、吹奏楽部でフルートやってるの。よろしくね」
「あっ東宮桜です。よろしくお願いします」
「朽木ルキアです」
「桜ちゃんにルキアちゃんね。よしっ、覚えた。二人とも部活見学来てね、待ってるよ」
「はい」
入学式も歓迎式も滞りなく終わった。
ちなみに校長の名は「香神キオ」、副校長の名は「伊勢七尾」というらしい。
気さくな校長に好感が持てた桜であった。