ぎんいろ

ふと月読命はその瞳を人界へとむけた。
そこには月読の守護する一人の人間の女がいた。彼女の魂はひどく澄んでいて、そして混じりけのない銀の色をしている。
・・・・」
愛しい者の名を呟けば、胸のうちが熱くなってくる。
自分がどれほど彼女を愛しているかはわかっている。それが許された想いでなくともだ。
「お前の魂は美しい。それでいて絶対に汚されない・・・・・・」
――彼女がほしい
いったいその誘惑に何度負けそうになったことだろう。
しかし彼女が神である月読と交われば、彼女の両親から授かった強い力は跡形もなく消えてしまう。
月読はそれをしたくなかった。普段の彼女の姿もよかったが、月読としては戦っている彼女の姿が好きだったのだ。
兄である天照は些か泥酔しすぎだろう、たかが人間一人に、と言っていた。しかし月読にとってはたかが人一人の話ではないのだ。
彼女は自分を見てくれた唯一の人間だったのだ。真正面から、あんなに堂々とものを言われたのははじめてだった。
「お前の魂の色は私が地上を照らす時の色よりも遥かに美しい」
ふとが顔をあげた。なにかまぶしいものを見るかのように目を細めている。
月読はその姿に手を伸ばしかけ、そして途中で思いとどまる。彼女が月読を見て笑ったのだ。

「月読」

がそう呼んだのが聞こえた。月読の口から笑みが零れ落ちる。彼女の足元にいる二匹の式が軽く月読を睨んできたのだ。
クスクスと笑いを止めることができない。彼に仕える月の精霊たちの主を見る視線は白かった。
「まったく・・・・・衰えを知らないね、風深。君の守りの術は完璧だよ」
呟かれた名はではない別の人間のものだった。彼に彼女を守るように頼んだ女の名だ。
「見ていて楽しいよ」
そして飽きない。そして愛しい。本当に人間とは面白いものだ。
「愛しているよ、。きみのその光は私のものだ」
こんな独占欲を抱くのははじめてだ。そうきっとそれは・・・・・・
「私自身が銀でありながら、あの澄んだ銀の輝きに惹かれているからだろうな」
クスッと笑みをこぼし月読は人界の映像を消した。
「さて、仕事だ。そろそろ宵の時刻だな?」
月の精霊たちがスッと白銀の馬を用意する。月読は軽く馬にまたがると空へと舞い上がった。

は暗くなった空を見上げる。そこには白銀に輝く満月があった。