ゴキブリ騒動
「ギャーッ!!」という叫び声が平穏な黒の教団本部科学室で響いた。
ちょうど茶を飲んでいた冬乃はそれを噴出し、傍らにいたミシェルが被害を受ける。
チェスをしていたアレンとラビはそれぞれ駒を落とし、リナリーは持ってきたお菓子を落とす。そのほかのエクソシストたちも被害を受けていた。
「げほっ・・・・いったい何が・・・・・」
「わからないですね・・・・・・」
エクソシストたちが状況を判断しかねている時、バンッと大きな音を立てて談話室の扉が開いた。
真っ青な顔のリーバーやそのほかの科学班の面々が荒い息でそこにはいた。冬乃が怪訝そうな目を彼らへむける。
「何があったの?」
「・・・・・・・リ・・・・」
「えっ?聞こえないの、もっと大きな声で言って」
「・・・・・・・・いいか、心の平定を保てよ」
「わかったからはやく言って」
「・・・・・・巨大なゴキブリだっ!!」
「はい?」
夢でも見ているのか、とその場にいた全員が思ったときだった。
げっというつぶやきが聞こえた。ちなみに声をあげたのは冬乃だ。全員が冬乃が見ている場所へ目をむけ、そしてさらに絶叫する。
教団内が混乱の渦に巻き込まれた。
「何アレ何アレ!!」
「室長だっ!机の上に乗せてあった変なクスリを飲ませた」
「それってもしかして髑髏マークつきの小瓶に青黒い液体のやつ?!」
「正解だっ!」
「あの野郎・・・取り扱い注意って札貼って置いたのに」
「「お前の責任かよっ!!」」
逃げている全員が冬乃に対して突っ込む。
「あれは対薄毛用の成長促進剤!!コムイがアジア支部長に渡すからって頼んできたのっ!」
「だからってあれは強力すぎだろっ」
「今は試作品だったのよっっ」
「試作品っ?!」
「だから取り扱い・・・・・にゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
全員分の悲鳴が重なった。目の前からもう一匹やってくるではないか。
狭い通路の前後に二匹の巨大ゴキブリ・・・・・・エクソシストたちはゴキブリ相手にイノセンスを使えず困っていた。
とちょうどゴキブリの背後でカチャと音がした。
「・・・・・・・・何やってるんだ?」
「うわっ!大きなゴキブリ・・・・・・」
朱雀院兄弟だった。
二人はまじまじとゴキブリを見上げる。ゴキブリのほうも二人を見ていた。
「えっなにこれ・・・・・実験の結果です的なものじゃないよね?」
正解です、とはいえない。いえるわけがない。
「・・・・・・兄貴、殺虫剤もってる?」
「あるよ。君の部屋の荷物の中にもあった気がするよ」
「あっ・・・」
白月の顔が引っ込むと同時に、樺月も同じように引っ込んだ。
とりあえず一塊になったエクソシストたちは二人の助けを待っていた。
「あったあった。超強力殺虫剤、やっぱりゴキブリにはこれとスリッパだよね」
「でもでかいのは叩けないぜ。ここまでだとダメージが少ないだろう」
いや、そういう問題じゃないから、とその場にいた全員が思った。
二人は殺虫剤のそれぞれの前にいるゴキブリへとむけた。
「それじゃぁ、せーの」
二人の殺虫剤が同時に毒を噴射した。
ゴキブリの顔にまともに殺虫剤がかかる。ゴキブリたちは苦しそうに身じろぎするとそのまま小さくなって死んだ。
「あっけねぇ・・・・」
「確かに」
二人は手元の殺虫剤を見ながら言った。全員があまりのあっけなさに呆然としていると二人が不思議そうに見てきた。
「お前たち、そんなにゴキブリ嫌いなのか?」
「生理的嫌悪ってやつさ」
「二人はどうなんですか」
「・・・・・・・・兄貴どう思う?」
「所詮はただの虫だろ?別に」
「同じくオレもだ」
「・・・・・・・・(最強兄弟)」
二人は同時に欠伸をした。どうやら昼寝の最中だったらしい。
「オレ達朝任務から帰ってきたばっかりなんだ。だからもう少し静かにしてくれ・・・・・」
そう言葉を残し二人は部屋に戻っていく。
とまた白月が顔を出して言った。
「冬乃、妙なクスリばっかりつくるなよ」
「悪かったわね!妙なクスリで!!今度飲ませるわよ!?」
「やだね」
白月は笑うと部屋の中へ顔を引っ込めた。
何はともあれ、巨大ゴキブリは消滅したのだ。エクソシスト及び科学班の面々は安堵の溜息をついてしゃがみこんだ。
オマケ
☆朱雀院兄弟後日談☆
白「そういや、あのあとコムイのやつ、冬乃とかリーバーにめちゃくちゃシメられたらしいぜ?」
樺「もともと彼女のクスリのせいじゃないの」
白「まぁとんでもないクスリを発明するのがあいつの得意技だけどな・・・・」
樺「まったく。自分のことは棚に上げておいて・・・・・先が思いやられるね」
白「それは同感」
樺「さてと、次の任務に集中しましょうか」
白「おう」
そして任務から戻ってきた二人が見たものは、半ば壊滅状態になった教団と、何かの残骸にすがりついて泣いているコムイの姿だったとさ。