雅
「・・・・・」「兄上、どうかなさいましたか?」
は桜の木へと伸ばしていた手をとめ、振り返る。そこには優しい兄の姿があった。
兄、清苑は琥珀に近づくと桜の木を見上げた。
「美しく咲いたな」
「えぇ。毎年綺麗に咲いてくれますから、お礼をしていたんです」
「礼?」
「はい。時々その枝もいただいてますから」
「・・・は優しいな」
「そんなことないです」
は照れたように頬を染め、兄の言葉を否定した。
それがまた初々しくて清苑は小さな笑みをこぼした。
「兄上は賢くていらっしゃる」
「まぁ努力の賜物とかいうやつだな」
「まぁ・・・・・・・・・・くすっ」
と清苑は笑いあった。ふと清苑はの髪に桜の花びらがついていることに気がつく。
細い指先でとってやり、そっと笑う。は不思議そうな顔をして清苑を見ていた。
「美しくなったな、」
「あっ兄上・・・・・いきなりなにを・・・・・」
「本当のことだろう?」
「本当とか・・・・・・そういうことではありません」
そっと清苑はの頬に触れた。かすかに紅くなった頬、小さく開かれた唇は真っ赤で、大きな黒い瞳は吸い込まれそうなほど・・・・・・
「兄上?」
「・・・・・・何故私たちは兄妹に産まれてしまったのだろうか・・・・・・」
「えっ?」
は驚いて兄を見上げた。兄は冗談を言っているようには見えない。
「お前ほど后にするに相応しい女はいないというのに・・・・・・」
「兄上・・・・それは・・・・・」
「わかっている。でも、それでも私は・・・お前を・・・・・・・・・・・・愛している」
は大きな目をさらに見開いて清苑を凝視した。だめだ。これ以上ここにいたら・・・・・・・
「兄上・・・・・私、部屋に戻ります!」
「待て」
清苑はの身体を後ろから抱きしめた。心地よい香りが彼女の髪から漂ってくる。
雅・・・・・その言葉がにはぴったりだった。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・兄上、私たちは兄妹です。そんなこと・・・・」
の潤んだ瞳が清苑を見つめた。
「は私が嫌いか?」
「そんなことあるはずもございません。ですが私たちは血が繋がっていますゆえ・・・・・」
「血が繋がっていると想うこともできないのか?」
「いえ・・・・・・」
は困ったように視線をさげた。清苑は少し意地悪しすぎたかなと思い、そっと身体を解放してやった。
が清苑を見上げる。清苑もを見上げる。
「部屋に戻るのだろう?」
「・・・・・・」
はそっと清苑と手を絡めた。清苑が驚いたような顔をへとむけた。
「もう少しだけこのまま・・・・どうかあなたと」
清苑はの唇に触れるだけの接吻をした。
「いつか・・・・・お前を迎えに行こう。兄ではなく、一人の男として」
「・・・・・・お待ちしておりますわ、兄上」
二人はそっと笑いあった。
そしてそんな二人を優しく見守るかのように桜の花びらが無数に舞い踊った。
それからしばらくのちのこと、清苑公子は外戚の謀反の疑いをかけられて流刑に処されることとなる。
姫も宮廷から人知れず姿を消した。二人の中にそれぞれの思いが隠されたままに・・・・・・・