僕だけが老いていく
アレンは冬乃が好きだった。アレンだけじゃない。ラビも神田も・・・・・・
しかしそれは許されている想いであると同時に、許されない想いでもあった。
なぜなら冬乃は不老不死。彼女が裁定する運命が終わるまでは、死ぬことはないのだ。
そして彼女は唐突に死ぬ。それは今日かもしれないし、明日かもしれない。それはわからない。
アレンが始めて彼女に会ったときから、冬乃は姿を変えていない。俄然美しいままだった。その美しさは時を経てゆくごとにどんどん増していく気がしていた。
そしてアレンもまた、同じ時を過ごす分だけ老いていった。
「冬乃さん」
「うん?」
「冬乃さんは僕のことが好きですか?」
「どういう意味での"好き"なのかな」
「もちろん男としてです」
冬乃は少し考えるように首をかしげた。
「そうだな、うん、結構好きっていう部類にはいると思うよ。でもなんでいきなりそんなことを?」
「・・・・・・冬乃さんは"裁定"を終えるまではその姿のまま、年をとることもないでしょう?でも僕は違う。時を経ていくごとに少しずつ老いていくんです。いつか・・・・・いつか僕は冬乃さんを残して死んでしまう」
「うんそうだね」
「誰か人が死ぬたびにあなたが心を痛めていることを知っているんです。だから余計に・・・・・」
「アレン」
優しい香りがアレンを包み込んだ。
「アレン」
もう一度名を呼ばれる。そしてアレンは冬乃が泣いていることに気がついた。
「アレンのせいじゃないよ。アレンが何かを思う必要はないんだよ」
「それでも僕は・・・・ただ愛するあなたのためだったら」
「うん、その気持ちはありがたく受け取っておくね」
冬乃はアレンを放すとそっと微笑んだ。アレンの好きな笑顔だった。でもそれはどこか悲しげでもあった。
「人が老いるのは仕方のないことなんだよ。私みたいに時を止めてはだめ。今ある時間を精一杯使って、そして生きて」
「冬乃さん・・・・」
「私にとって、あなたたちといる時間がとても大切なのはわかるよね。もう何度も人の死を経験してきた。何人もの友人を亡くして、それでもなお私は死ぬことができない。ねぇアレン・・・・・私のことを考えないで?」
「どういうことですか・・・・・・想ってはいけないってことですか」
「違う。違うわ。想ってくれるのは嬉しい。でも・・・・・・あなたたちが私を想うことで辛い目にあうから・・・・・それが許せないの」
アレンは自ら冬乃を抱きしめた。
「僕たちだけが老いてゆく。それはどうしようもないことです。それでも僕らはあなたのことが好きなんです。あなたを想うことで辛い目にあるというのなら、僕らは甘んじてそれを受けましょう」
「アレン・・・・・」
「あなたが好きです。好きで好きでどうしようもないくらいに。神田もラビも同じです。でも僕はあなたをあいつらに渡すつもりはありません」
アレンの言葉に冬乃は眼を見開いた。
「僕だけが老いていく。それは仕方ないことです。でも僕は・・・・・・・・命尽きるその瞬間まであなたを愛しましょう」
アレンはそっと冬乃に口付けた。
「おじいさんになってもですよ、冬乃さん」
クスッと笑うと冬乃の顔が紅くなる。
「アレン、黒いわよ・・・・」
「自覚してます」
冬乃は紅くなりながらも笑った。
あなたは老いない
でも僕は老いていく
いつか僕はあなたをひとりにする
でも・・・・この命はあなたのもの
命尽きる瞬間まで
僕の心はあなたのもの