翼
あの女が正直はじめは気に入らなかった。自分ひとりが罪を背負ったような顔をして、それでいて時折すごく辛そうに顔をゆがめることが・・・・・・
「ちっ・・・・・・なんで俺はこんなにいらついてるんだ」
神田はベッドから身体を起こすといらつきをなだめるために修練場へむかった。ストレス発散には修練がちょうどいい。
が、そこには既に先客がいた。しかも今まで神田がいらついていた女エクソシストだったのだ。
「・・・・・・・・・・」
彼女のほうも意外そうな顔をして神田を見てくる。その背には四枚の美しい白の翼があった。彼女のイノセンスだ。
「確か・・・・・神田、とかいったかな?」
「なれなれしく呼ぶんじゃねぇ」
「そうか・・・・・ではなんと呼べばいい?名がないと不便だろう」
「・・・・・・・・・神田でいい」
「矛盾したやつだな」
クスッと笑うと彼女は神田の脇を通る。そのときにはもうイノセンスはしまわれていた。
「修練、がんばれよ」
神田は動けなかった。彼女の笑顔に釘付けだったのだ。
「ちくしょう・・・・・なんなんだ、いったい・・・・・・」
「・・・・・・神田?」
いぶかしげな声が聞こえて、顔をあげればそこには冬乃がいた。
さっきの女、リオン・フェリスの友人だ。
「すごいいらついてない?」
「いらついてなんかいねぇよ」
「・・・・・・・神田、蕎麦食べた?」
「はぁ?まだだけど・・・・・・」
「じゃぁ食べに行こう」
冬乃と神田は食堂へむけて、歩き始めた。
「ふふっ、神田さっき見惚れてたね」
「なににだ」
「なんだと思う?」
「・・・・・・・・」
「リオンのイノセンスvv」
「はぁ?!」
「綺麗な翼だよね・・・・・・リオンのイノセンス。まるで天使だよ〜」
「お前、夢を見すぎだろ」
「そうでもないよ?」
冬乃は思っていた。リオンのあの翼のイノセンスは罪を負っている。それでもなお輝き続けている、と。
それがまた美しいのだ。あの白さが羨ましい。
「神田・・・・・・私の背中にも翼はあるのかな」
「はぁ?なんだよいきなり・・・・・」
「神田の背中には天使みたいな翼ってよりも悪魔っていう感じの翼なんだろうね」
クスクスと笑いながら冬乃は言った。神田は危うく蕎麦ののったお盆を落とすところだった。
「神田も素直じゃないね・・・・・・」
「話が飛躍しすぎだ」
「ふふっ、きっと皆リオンのあのイノセンスに惚れるよ。神田、早く奪っちゃいなよ?」
「誰があんなやつ」
紅くなった顔を背ける神田を冬乃は面白そうに見つめていた。
天使の翼
神の翼
我らはかの翼に
心奪われん
汝、しかと見つめよ
罪を負ってもなお
凛と輝く
その白さを