星降る夜
「ねぇねぇ皆知ってる?」コムイがエクソシストたちにそうたずねたのは今朝のことだった。
思い思いの時間を過ごしていた彼らはコムイの話を聞いていた。
「今日、流星群が見られるんだって」
「りゅーせいぐん?」
「流星が大量に流れることだよ。何年かに一度見れるんだって。でも教団で見られるんですか?」
樺月がそう補足の説明をして、コムイを見た。
コムイは笑顔でうなづいた。冬乃が呆れたように息を吐き出した。
「それがどうしたの、コムイ」
「だからさぁ、皆で見ようよ」
しれッとした空気がその場に落ちた。コムイはあれ?と首をかしげる。
「興味ないから」
「僕もやめておきます」
「俺もパスさぁ」
「鍛練しているほうがましだ」
「今夜は白月とチェスをやるんだ」
エクソシストの反応にコムイはべそをかく。
そして部屋の隅でうずくまった。そんなコムイへ冬乃の容赦ない一撃が入る。
「そこでじめじめしていられると巨大なキノコがはえそうだからやめて頂戴」
さすがは冬乃(さん・さ・だ)と全員が思ってしまった。
コムイは涙目で妹の事を見た。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
長い沈黙が落ちた。
リナリーは困ったように友人を見た。その視線を受けた冬乃は軽く首をかしげた。
『冬乃・・・・お願い、兄さんと星を見るって言って』
『なんで○○才になってまで子供っぽく星を見なきゃいけないのよ』
『お願い。冬乃が見るっていえば、きっと皆も見るって言うから』
『いやだ』
冬乃とリナリーはそう目で会話していた。
それを知るアレンたちは二人の様子を見守っていた。
『お願い・・・・・』
『・・・・・・』
冬乃は小さく溜息をついた。
リナリーがほっとしたような顔をした。
「わかったわよ・・・・・・でも少しだけだからね?」
「本当?!」
「本当・・・・・・だから押し倒しかけないで・・・・・」
コムイは嬉しそうにはしゃいだ。リナリーが少し申し訳なさそうに冬乃を見た。
冬乃は小さく笑った。
『別にいいのよ』
『ごめんね・・・・・ありがとう』
『どういたしまして』
そしてその夜。
彼らはマフラーを巻いて教団の外にいた。
空には雲ひとつない夜空。小さな星々が自己主張(冬乃に言わせると)をしている。
「本当に流れるんですか?」
アレンが疑わしそうにコムイにたずねた。コムイは自信満々にうなづく。
「確かだよ。まぁもう少し待ってみようよ」
「あっ・・・・・」
ラビが小さく空を見上げて声を出した。
ラビの視線の先を全員が見て、そして息を呑む。
コムイが満足げにうなづいた。
星が・・・・・・・
降
っ
て
い
た
。
「すごい・・・・・・」
「星が落ちてくる・・・・・・・・」
その場にいた者全員が感心したように空を見て、呟いた。
樺月が小さく笑い声をあげた。そばでは白月が不満そうな顔をしていた。
「あ〜おかしい・・・・・・」
「んだよ、別におかしくないだろ?俺の願いみたいなものだし」
「樺月?一体何の話さ」
「知らない?流れ星の願掛け。流れ星が消え去るまでに願い事を三回心の中で唱えたら叶うってやつ」
「ロマンチックね」
「じゃぁ僕はリナリーと恋「それは却下」
それぞれの場所でそれぞれの願いが口にされる。
冬乃は呆れたように溜息をついた。
「ちょっと、大事なことを忘れてない?」
「大事なこと?」
「私たちが今最優先すべき願いは?」
あっ、と全員が言われて思い出す。
アレンが代表して言った。
「この世界を千年伯爵の魔の手から救い出すこと」
「正解。ってか人に言われる前に思い出しなさいよ・・・・・・」
「で、冬乃は三回唱えられたさ?」
「無理・・・・・今やってるんだけどねぇ・・・・早口言葉は苦手なの」
「心の中で唱えるだけだから問題ないと思うんだけど・・・・・」
樺月の言葉を聞いた冬乃は彼を睨んだ。
「ごっごめんなさい・・・・」
なんとなく反射で謝ってしまう兄に白月は呆れたように息をついた。
アレンとラビが残念そうな息をついた。
「難しいさぁ〜」
「ですね・・・・・」
「じゃぁみんなで一緒にやってみようよ。そうしたらできるかもしれないよ」
コムイの提案に全員がのる。
その場にいるもの全員が眼を閉じた。
「じゃぁ・・・・せーの、で唱え始めてね・・・・・・・・・・せーの」
静寂があたりを包み込んだ。
暗い暗い空には明るい星が降り続けている。
やがて誰からともなく目をあけた。そして互いに顔を見合わせて笑いあう。
「どう、上手くいった?」
「あぁ。不思議さ、皆であわせたら上手くいくなんて」
「信頼してるからね」
「兄貴が信頼されてる?嘘だろ」
笑い声があがった。
少しずつ星の数が減っていく。少し残念そうにそれを見ていた。
「叶うわよ。絶対。皆で一緒に願ったんだもの」
冬乃が言った。コムイが傍らでうなづき、リナリーがピトリと冬乃の肩に頭をのせた。
後ろでアレンとラビが笑いあい、神田が黙って空を見上げる。
樺月と白月は口元に笑みを浮かべ、ほかの者達もそれぞれ笑顔で空を見上げている。
流星群
たくさんの星々に願った
たった一つの願いは
天上の神にもきっと届く
たくさんの星々にのせた
たった一つの思いは
僕らの中に染み渡る