チョコレート
私、・シルビアは今、恋をしている。あの魔法悪戯仕掛人の一人、シリウス・ブラックに。
でも彼は容姿家柄頭脳と三拍子そろっているために、ほかの女子生徒にもてていた。
私など近寄れないほどに。
彼に出会ったのは三年の学期の始め。
大広間へと続く階段を下りていたときだった。
その階段は時々一段消えるという厄介なもので、普段ならば注意していくのだが、考え事をしていてすっかり忘れていた。
「わっ!」
「危ねぇっ!」
抜けた階段に足をとられ、階段を転げ落ちかけたとき、誰かが私の腕をつかんだ。
「ったく・・・・・・大丈夫か、お前」
声に顔をあげると漆黒の双眸と目があった。
一瞬にして体温が上昇するのがわかった。
「あっうん・・・・・・ありがとう」
「やれやれ・・・・・」
「シリウス、急がないとジェームズの試合に遅れるよ」
「あぁわかった。じゃぁな、今度はぼぉっとしているなよ、・シルビア」
「えっ・・・・」
なんで彼が私の名前を知っているのかわからなかった。
そういえば、同じ寮だった気がする。
「、何々?もしかしてシリウスに見惚れているのかな?」
「ひゃぁっ!」
至近距離から親友の声が聞こえて私は飛び上がった。
振り向けばそこには笑顔のユイの姿があった。ユイは彼らの去って行った方向を見た。
「確かにはものすごく鈍感だから知らなくて当たり前だろうけど・・・・・せめて"魔法悪戯仕掛け人"のことぐらいは知っておいたら?」
「"魔法悪戯仕掛け人"?」
私は首をかしげた。聞いたことのある言葉だ。
ユイは呆れたように息をついた。
「知らないんだ?」
「・・・・・・うん」
「"魔法悪戯仕掛け人"グリフィンドールじゃ有名な四人組よ?ジェームズ・ポッターを筆頭にシリウス・ブラック、リーマス・ルーピン、ピーター・ペティグリューで数々の悪戯をしているわ。ちなみに前三人は成績優秀」
「ほぇぇ・・・・・」
感心する私にユイは溜息をついた。
「でもハードル高いわよ?シリウスは女癖悪いって評判だし」
「ユイは好きじゃないの?」
「冗談。あんなの好きにはならないわ」
ユイはヒラヒラと手を振って私の言葉を否定した。
「そうだ、知ってる?」
「何を?」
「"恋=チョコレート"っていう方程式」
「いや・・・・・今始めて聞いた気が・・・・・」
「恋は恋が深くなればなるほど甘くなる。それがチョコレートになるのよ」
「わけわかりません・・・・・」
ユイは口をとがらせて私を見た。
ユイの方程式があっているとすればきっと私のチョコはまだまだ苦いものなのだ。
というかどちからというと恋をするからチョコレートが甘くなるんだと思う。って・・・・
「今、何時、ユイ!」
「えっと・・・・16時4「きゃーっ!私、闇の魔術に対する防衛術の先生に呼ばれてたんだっ!またあとでねっ」
「いってらっさーい」
私は急いで先生の教室へむかった。
どうしても私は防衛術の授業だけが上手くいかない。ほかは自他共に認めるほどよくできているのに・・・・・
おかげで今日、補習を言い渡された。成績のいい生徒を呼ぶから彼に教えてもらえって・・・・・
「ごっごめんなさい、遅れて・・・・・」
「かまいません。さぁ中に入ってきなさい・・・・・・・ミス・シルビア?」
先生がいぶかしげに私を呼んだ。でも私はそんなこときいてもいない・・・・だって・・・・
「あぁ彼ですか。あなたと同じグリフィンドールの生徒です。人見知りするあなたは知らないだろうけど」
「いえ、知っていますよ」
彼が・・・・―シリウス・ブラック―は爽やかな笑みを浮かべて先生に言った。先生は私とシリウスを見比べた。
確かに私はひどい人見知りだ。ユイに出会っていなかったらこのホグワーツ内で完全に孤立していたと思う。
そんな私と生徒達に良く知られている人気もののシリウスとが結びつかなかったのだと思う。
「そう。じゃぁミスター・ブラック、彼女のことをお願いしますね。私に教わるよりもあなたのほうがわかりやすいでしょうから」
「はい。任せてください」
先生はそう言うと私に軽く笑顔をむけて部屋を出て行った。
部屋の中には私とシリウスだけだ。
って・・・・・そういえば今はクィディッチの時間のはず・・・・シリウスは先ほど誰かに呼ばれて行った。
なのに何故ここにいる?
「不思議そうな顔だな、?」
「だ、だって私とあなたは何の接点もないはずなのに・・・なんで?」
「さぁ、なんでだろうな?少しは考えてみたらどうだ」
「・・・・・えっと、私がシリウスに迷惑かけてその仕返しをしようとか・・・・・・?」
「・・・・・・・・いや、それだったらオレは部屋に呼んで一緒に寝てる」
「うっ・・・・・・」
私は思わず一歩引き下がってしまった。シリウスは意地悪そうに微笑んでいる。
「それじゃぁやるか」
「あっあのシリウス?」
「なんだ」
「クィディッチの試合はいいの・・・・・・?」
「あぁ。どうせジェームズが勝つに決まっているからな」
「信頼・・・・・しているんだね」
「まぁな。さてはじめるか」
私は勉強に集中するよりもシリウスの横顔に集中していた。
端整な顔立ちは悪戯っこには見えない。
「?」
「あっはい」
「お前ちゃんと聞いていたのか?」
「えっと・・・・・・いえ」
「はぁ・・・・・・・・人の横顔に集中するよりも、勉強に集中しろ」
そう言ってシリウスは私から顔をそらした。何か小さく呟いたようだが私には聞こえなかった。
「シリウス?」
「って、恋人いるのか?」
「ななな、なにをいきなり!いるわけないでしょう?!私、ユイから鈍感だって言われているんだから」
「・・・・・・だろうな。あの階段踏み外すなんて到底考えられないし」
「失礼ねっ!私だっていつもはちゃんと降りているわ。ただあの時は考え事をしていただけで・・・・・・・」
「考え事?どんな」
「えっと・・・・・・・なんで私はいつもどじなんだろうって」
シリウスは私の顔をまじまじと凝視したあと噴出した。
「何がおかしいの?」
「いや、別に」
「じゃぁ何で笑うのよ」
「やっぱり俺が想ったとおりの女だなって思ったから」
「・・・・・・どういうこと?」
「・・・・・・・・」
シリウスはいたずらっ子の顔になって私を見た。
私はその顔にどきりとする。顔が赤くなっていそうで恥ずかしかったが、顔をそらすことはできなかった。
「オレ好みの女ってこと」
クスッとシリウスは笑う。一瞬、頭の中が真っ白になった。
「さて、続きをやるぞ・・・・・・・・?」
「///////////」
私は顔が真っ赤になるのを感じた。
「あの・・・・シリウス」
「うん?」
「それは・・・・・・その言葉は私もシリウスの彼女になれる可能性が高いって考えてもいいの?」
「・・・・・・・・・・今更だぜ、?」
「えっ?」
「とっくにお前は俺の彼女候補。お前がいいんなら俺の彼女。どうだ?」
私は自分でも知らないうちにシリウスに抱きついていた。
シリウスが頭上で苦笑しながら私を抱きしめてくる。
「好き・・・・・・あなたが」
「俺も」
シリウスは私に向かって優しく微笑むと、そっと触れるだけのキスをしてきた。
「俺がお前の教師役に出たのも、俺がお前のことを好きだったからだぜ、」
「そうなの・・・・・?」
「まぁお前の防衛術の授業の点を人並みにしてやろうというのもあったけどな」
「ちょっ・・・・・・それはひどい!!」
「人並みじゃないやつが何を言う」
「うっ・・・・・」
「それと。俺の望みにかなわなかった場合、俺にお前からキス一回な」
「えっ・・・・・・・」
私は硬直した。シリウスは意地悪げに微笑む。
「じゃぁはじめるか。あっ俺の理性がぶっ飛ばないうちに理解しとけよ?」
シリウスはそう言うとどんどん授業を行っていく。
私は慌ててシリウスの言葉を聞いて行った。
その後私が何度シリウスに襲われたかは私とシリウスだけしか知らない。
そういえば、シリウスも言っていた。
「お前ってさ・・・・・チョコレートみたいだな」
「はい?」
私は思わず聞き返した。ホグワーツでは私の知らないあいだにチョコレートがブームになっているのだろうか。
「オレの心を甘くしてくれた、ってこと」
そう言って笑うあなたこそ、私の心を甘くしてくれたチョコレートかもしれない。