君ありて幸福
は仲間たちと話すを見ていた。は楽しそうに笑っている。
「笑顔が増えたね、君」
「えぇ・・・」
は後ろを向いた。メガネをかけた日系人の男が立っている。
コムイ・リー、この黒の教団サポート班のリーダーだ。
「本当、戻ってきてよかった・・・・・」
長年連れ添い、教団から抜けたあと彼の笑顔を見ることは少なくなった。
恋人を死なせ、罪の意識に悩まされていることを知っていたが彼の助けにはなれなかった。
二度目に戻ってきたときにはあまり歓迎されなかった。しかし一ヶ月も経つと何人ものエクソシスト、サポーターたちが声をかけてきてくれた。
親友ができたと言っていた。お菓子をもらった、とも。
「君も笑うようになったよね」
「・・・・・何言ってるんですか、コムイ室長。僕はもとから笑ってますよ」
「違うよ。君が前に浮かべていたのは嘘の笑顔。本当の心を隠した偽りの表情だよ」
「冗談はやめてください」
「冗談じゃないよ」
はコムイの言葉に視線を落とした。
コムイはの隣から下にいるとその仲間たちの様子を見た。
は楽しげに談笑している。では彼にあの表情をさせることはなかった。
「君は自分でも気がつかないうちに、本当の感情を心の中にしまって偽りの感情を出せるようになってしまったんだよ」
「そんなことないですよ。僕はいつだって本音です」
「嘘だよ。キミは無意識のうちに自分の心を殻に閉じ込めているんだ」
「・・・・・・・・・・・」
は息を吐き出した。コムイの目を真っ直ぐに見ることができない。
そして彼が今すごく怖かった。
「なんで・・・・・なんでそんなことが言えるんですか」
「・・・・・・キミたちがここに一番初めに来たときのことを覚えているかな。君たちはほとんど無表情だった」
「えぇ・・・・・あの時は誰も信じられませんでしたから」
「しばらくして君は笑顔を見せてくれるようになった。そして白月君も少しだけ・・・・・冬乃ちゃんに聞いたことなんだけど、人の笑顔には何種類かあるそうだよ。企みを隠しているもの、悲しみを抱えているもの、本音の笑顔、殺意を隠しているもの、そして何も・・・・・無表情の笑顔。キミはまさに最後の笑顔だった」
何も考えられていない虚無の表情。感情は一切ない。ただ虚ろな闇があるだけ。
は幼くして感情全てを封じる術を持ってしまった。
「君、今の君の笑顔は本当晴れ晴れとしているよ。まるで憑き物が落ちたみたいに」
「そんなこと・・・・・・」
「君に救われた?あっ大丈夫、ここで話したことは誰にも言わないから」
はコムイを見て泣きそうな顔になった。
「自分では・・・・・・自分では完全に隠せていると思ったのに・・・・」
「無理だね。君ならともかく、僕らは簡単には騙せないよ」
「・・・・・・・・・・大人たちが喜ぶようなことをして生きてきたから。にマトモに顔向けできないんだ。何回も死のうと思ったし・・・・」
はそう言って右腕に巻かれていた包帯をスルスルとはずしていった。
そこから現れたものを見たコムイは眼を見開いて、を見た。
「・・・・リストカット。知ってますよね、コムイ室長」
「相当な数があるってことは何度も・・・・・?」
「死のうと切ったと、の顔が浮かんできたんです。悲しそうな顔が・・・・僕が死んだら彼はどうなるんだろうって・・・・・・今の僕がいるのはのおかげかも知れませんね」
コムイはの腕の傷に触れた。
「あとで医療班に頼んで完全とはいえないまでもじっと集中しなきゃ見えないほどに消してもらおう。そんな傷をいつまでも抱えてちゃ、君の笑顔が曇るし、君自身もまた・・・・本音を出せなくなってしまうからね」
コムイはそう言うとリーバーの声がするほうへむかって行った。
は自分でつけた傷跡を見た。醜い。
そして傷からへと視線を移した。彼の大事な弟。本当の笑顔を教えてくれた人。
「・・・・・キミがいるから僕がいるんだよ・・・・キミがここにいてくれるから、僕はここにいられる・・・・・・そのことに感謝を・・・そして願わくば、これからもずっと一緒に」
ふとが顔をあげての姿を見つけた。
そして笑顔で手を振る。
はその笑顔を見て、ニコッと笑い、幸せだな、と思った。
君がいるから僕もいて
君が笑うから僕も笑って
君のそばにいること
それが僕の幸せ