創造主
「神は地上に大洪水を起こそうとした。失敗した人間たちを滅ぼすためである。神は一人の人間に神託を与えた。それが我らの祖ノアである。ノアは巨大な箱舟を作り、その中に動物のつがい、妻と乗り込んだ。神は七日七晩、大雨を降らし地上のすべてを押し流した。これ即ち"悪夢の七日間"雨がやみ、ノアは鳩を空へと離した。何日か後、その鳩はオリーブの枝を加えてきた。陸地があったのである。ノアは地上に降り立ち妻とともに新世界の創造を行った・・・・・」
「アリサ?」
アリサはクスッと笑う。ロードが不思議そうな顔をして彼女を見た。
「どうしたの?」
「いえ・・・・・・やがて創造主はこの世を破壊する。最後の審判である。創造主は二人の配下を地上へと遣わす。即ち"裁定者"なる者と"破壊者"なる者である。"裁定者"は人間達の罪をはかり、"破壊者"は用が済んだ世界を完膚なきまでに破壊しつくす。これ即ち"世界の終末"神はおっしゃられる。"さぁ世界を造り始めよう"・・・・・・そしてまた世界の創造が始まる。歴史は繰り返されるのだ」
パタン、と本を閉じ、アリサは目を閉じる。まるで遠い昔に思いをはせるかのように。
「歴史は繰り返されるものだもの。そうよね、ロード?」
「だよねぇ、人間たちは戦争を繰り返してるし。やっぱり僕らが新世界の神になったほうがいいんだよ」
「そうね。人類最古の人間、私たちノアの一族が・・・・・・」
そう、最後の審判は始まろうとしているのだ。"裁定者""破壊者"がそろってしまった。
彼らを殺せば最後の審判は行われない。しかしノアの一族である自分たちにあいつらを殺すことはできるのだろうか。
神の力を受け継ぐ二人の人間。いや、三人だったか・・・・・・
「どちらでもいいわ。結局は私たちが勝利するんだもの」
ふふふ、と笑うアリサをロードは頼もしげに見ていた。とそこへティキがやってくる。ティキはアリサの持つ本をとると目を細めた。
「黙示録に最後の審判・・・・・・・・アリサ、お前確か前もこれを読んでいなかったか?」
「読んでいたかしら」
「お前、忘れやすいな・・・・」
アリサはクスクスと笑う・。ティキは知っていた何故アリサがここまで聖書を読むのかということを。
彼女は創造主を恨んでいるのだ。本人も知らないうちに。
彼女にこんな運命を与えた創造主を、人間をつくり繰り返す運命をつくった創造主を。
彼女はこの世の誰よりも恨んでいたのだ。
「アリサ・・・・・・・」
「ティキ?」
アリサは自らを抱きしめるティキを怪訝そうに見た。
「俺がお前のその運命を壊してやるよ」
「本当?」
「あぁ、絶対だ」
「・・・・・・・・うん」
アリサはギュっとティキを抱きしめた。
「アリサ、僕もやるよ?アリサの哀しむ顔なんて見たくないしね」
「ありがとう、ロード」
アリサは笑って兄弟と手をつないだ。そしてほんの少しだけ、神に感謝した。
自らにこんな家族を与えてくれたことを・・・・・・・・