自身の霧となったイノセンスの中では静かに瞑想していた。
イノセンスとの"対話"を行なっているのだ。上手くいくかはわからない。
ただ、イノセンスとの絆を深めようとしているだけである。
アレンは今、フォーと戦って自身を追い詰めていた。
「・・・・・・・・・・・」
の目が開かれる。
ゆっくりと開かれた瞳は左右で色が違っていた。
「俺は・・・・・・ソルディアじゃない。だ」
は小さく呟いてまた目を閉じた。
が、今度はすぐに目をあけ、立ち上がる。
鼓動が早くなっていた。
「アクマ・・・・・・・」
この支部はバクのひいじいの守り神によって守られていると聞いていた。
結界があるはずなのに、何故入ってこられるのかとは思った。
そしてその疑問はすぐに解明された。
の目の前に巨大な形容しがたいものが姿を現したのだ。そこから一匹の黒蝶が現れた。にも見覚えのある蝶だ。
「あれは・・・・・」
アレンを探し当てた時にいたノアが連れていたものだ。
そして。
≪お前が。破壊者の片割れだね?≫
そのアクマはに問いかけた。
は黙ったまま何も答えない。
≪その目。確実にそうだ。私の獲物に相応しい≫
そう言ったかと思うとアクマはに攻撃を仕掛けてきた。
イノセンスの回復もできていないはアクマの攻撃を避けるので精一杯である。
≪何故逃げてばかり?あぁそうだ。イノセンスが使えないのか>
「うるせぇ・・・・・・・」
≪図星だろう?そんな破壊者などおそるるに足らず。なんでノア様はこいつを連れて来いなんて言ったんだろうねェ?≫
「・・・・・・・」
≪まぁいい。ノア様の命令は命令。お前を分子レベルにまで分解して連れて行くよ≫
アクマの指から細い光がむかって放たれる。
イノセンスがない状態でどうやってアクマと戦おうかと考えていたは反応が遅れる。
の体を光が貫いた。
「あぁぁぁぁっぁぁあ!?」
痛みが全身を駆け抜ける中では女の嗤う声を聞いた。
『ばかねぇ』
誰だ・・・・・・
『ねぇ、思い出してご覧なさいよ』
なにを
『あなたがエクソシストになった理由を』
そんなのなんとなくだ。いわれたから・・・・・・
『本当にそれだけ?』
・・・・・・・わからない
おれ自身にもなにもわからない
『イノセンスはあなたの想いに答える。、あなた何をしたいの?破壊者として世界を壊す?エクソシストとして世界を守る?』
どちらがいい?と声の主は問いかけてきた。
『どちらにせよ、あなたが辛いことに変わりはないけれど』
守れるものなら守りたい
『ならその気持ちをイノセンスにぶつけてみなさい。私達はその想いに強く答えるのだから』
おれは・・・・
の中に小さな想いが芽生えた。
ゆっくりとの手が宙を指し示した。その指のまわりに粒子となったイノセンスが集まっていく。
「イノセンスよ・・・・・俺の想いを受け取れ・・・・・右に救いを左に破壊を。どちらも俺が望み、どちらも俺の宿命。俺は戦おう。俺の守りたいものを守るために」
カッとひときわイノセンスが強く輝き、の胸を貫いていた光の筋を断ち切った。
イノセンスに包まれたの体も輝く。アクマはその光から目を覆うようにした。
「闇に染まった魂に安息を」
もやの内からそんな声が聞こえたかと思うと、大鎌がアクマを二つに切り裂いた。
≪なっ・・・・・・・・・?≫
アクマは驚いたようにもやの中を見た。そこから人影が現れる。
「ってぇ・・・・・さすがにレベル3ともなると硬くなるのか」
そう言って呟きながら出てきたのは死神だった。
顔の左側を仮面で覆っている。その仮面の目元には美しい模様があり、しかしそれを穢すようにして赤い色が流れていた。まるで血の涙のように。
いっぽう右側は普通である。
そして着ているものは先ほどまで着ていたシャツではなく、何の模様もない黒いものだった。
手にはの身長を遥かに超して二メートル弱はあるであろう大鎌を持っている。その柄の部分にも繊細な模様が彫られていた。
「さて、悪いなアクマ。俺はこれからアレンのところにも行かなきゃならないから独りで爆発でもなんでもしていてくれ」
がそう言って背を向けると当時にアクマのボディはさらさらと砂になって消えていった。
は部屋を出ると着ている服の中をのぞいた。ひきしまった胸の中央に十字架が埋まっている。
はイノセンスと同化し、寄生型のエクソシストとなったのだ。
「なんだか変な感じだな」
小さく呟くとはアレンの部屋へとむかう。
部屋の前にウォンや蝋花たち科学班見習い三人組みがいた。
「ウォン!」
「殿!?そのお姿は」
「アレンは中だな!」
はウォンの言葉を待たず中に飛び込んだ。
「アレン!」
「?!」
「!!」
はアレンの姿を見てほっと一息ついた。
アレンもまたイノセンスを元に戻していた。
「戻ったんですね」
「あぁ、お前もな」
二人は小さく笑って互いの肩を叩きあった。
二人のイノセンスの名が記された。
アレン・ウォーカー「神の道化」
「The braker of the soul(破壊者)」
「アレン」
「はい」
「行くか」
「・・・・・えぇ」
二人は「ノアの箱舟」を見上げたのであった。