は襲いかかってくる異邦の妖異たちを次々に狭霧丸の露としていた。
螢斗や翡乃斗も容赦なく切り捨てていく。
「なんなのよ、この多さは!《
「言われても困る《
“右に同じく”
は懐から呪符を抜き出した。
「臨兵闘者皆陣列在前!《
を中心に霊気の刃が妖たちを切り払っていく。
「さすがだな《
「まぁね《
「篁と同じだ《
「じじいと一緒にすんな、このやろう!《
本宮への階段を駆け上がりながらは言う。後に続く式神たちは苦笑を漏らすが背後にくる神気に目をむけた。
も気がついたらしく、階段を上りながら首だけを動かす。
「十二神将?《
の言葉に答えるように神将たちが姿を見せた。
「おーおー、加勢しに来てくれたんだ《
「お前のためじゃない。晴明の命令だからだ《
「はいはい、そーですか《
はさして興味なさげに返答しておく。
そしてたどり着いた本宮の門前には異邦の妖異たちが厚い肉壁となって立ちはだかっていた。
「邪魔よ・・・《
が口元に笑みを浮かべながら言った。
ふと螢斗が背後を振り返る。
「螢斗?《
「・・・・・・・・緋乃からだ。昌浩がこちらへむかっているそうだ《
「わかったわ《
狭霧丸が鬼火の光を反射して輝く。
「じゃぁ邪魔なやつはさっさと片付けましょうか《
緋乃は貴船の前にやってくると焔玉を宙へと打ち上げた。
昌浩が上思議そうな顔をしてみる。
「様に知らせました。これで気がついてもらえるはずです《
「そっか《
昌浩は少し嬉しそうに笑った。がいることほど心強いものはないのだ。
「参りましょう。彰子姫が待っているはずです《
「うん《
二人と一匹は貴船の闇へと踏み込んだ。
気持ち悪くなるほどねっとりとした瘴気が三人を包み込む。
「これでも多少はましなはずです。螢斗、翡乃斗の神気が残っていますから《
「なかったらって想うとぞっとするよ《
「えぇ・・・・・・《
緋乃はわずかに苦笑した。の霊力が爆発したあとも感じる。
昌浩のために道を開けておいてくれたのだ。
「・・・・・・!?《
「緋乃?どうしたの《
「・・・・・・・・・いえ《
緋乃の目が鋭くなる。一時はしまわれていた剣がまた手の中にあった。
「昌浩様、ふせて!《
剣に何かがはじかれるような音がした。
物の怪が昌浩の首根っこをつかみ地面に倒す。
矢が昌浩の頭を掠め去って行った。
「うわぁい・・・・・・《
昌浩の口元が引きつっていた。緋乃は飛んでくる矢を剣ではじき返す。
「禰宜と宮司は既に飲まれているようです。昌浩様、ここは私と神将に任せて先を急いでください《
「緋乃!でも・・・・・・《
「彰子姫があなたのことを待たれていますよ《
緋乃の口元が優しく笑んだ。
「・・・・・・・・わかった《
「なんでしたら物の怪殿も参りますか《
「物の怪言うな。俺は行かない。こいつらをやってからだ《
「わかりました。では昌浩様、お気をつけて《
「うん!《
昌浩は夜の道を駆け上がっていく。物の怪の姿が騰蛇へと変わった。騰蛇は手の中に三叉の槍を持っている。
「私は禰宜を《
「じゃぁ俺は宮司だな《
二人の口元が凄絶に歪んだ。
b「俺たちに出会ったことを後悔しろよ《
「きりがないっ!《
“親玉を叩かなければだめだ”
「螢斗、翡乃斗、援護よろしく!《
螢斗と翡乃斗が同時に肩に巻いていた布を宙へと放つ。
光があたりを照らしたかと思うと急に鬼火も消え貴船が闇に包まれた。神将たちはとまどうが、はなんのこっちゃないというふうに妖異たちを葬っていく。
本宮の門の上にいた鵔はとまどう。はしめたと思うが何かにはばまれ地上へと叩きつけられる。
「つぁっ!《
「!《
闇が晴れる。
「いって・・・・・・・うぜぇ・・・・・・うぜぇうぜぇうぜぇ・・・・・・・《
ふつふつと湧き上がる怒りを感じたのか、式神たちは肌を泡立たせる。
は狭霧丸を支え杖に立ち上がった。
「昌浩、あの妖異は私に任せなさい《
ちょうどそこへやってきた昌浩は怒りに燃えるの背を見てびくりとした。
びくびくしながらうなずくとの背からフッと力が抜けた。
が、次の瞬間を中心として何やら得体の知れない力が噴出す。
「貴様・・・・・その力は人のものでは《
「人じゃないからだよ。私はね《
は凄惨に笑った。普段の彼女からは考えられないような笑みだ。
「言っておくけど・・・・・私は死んだあとも冥府に仕えることをよしとした人間。その代わり力を借りてるんだ・・・・・《
ゆらりとのからだが動く。瞬間、彼女の体は空中にあった。
「なっ・・・・・《
「昌浩、行け!《
の声に神将、昌浩たちははっとしたように前を見た。の力で妖異のほとんどは倒されている。
昌浩は本宮の中へ駆け込んで行った。
「行かせるかぁぁぁ《
「てめぇの相手はこっちだ!《
狭霧丸が鵔の片翼を切り裂いた。耳障りな絶叫を鵔はあげる。
翡乃斗と螢斗は主の怒りを敏感に感じ取っていた。そのため主の邪魔をしないよう昌浩の後方支援に回る。
は放っておいても平気だろう。
ふと二人は神気を感じ取った。高天原の神である二人には馴染み深いものだった。
“ほぅ・・・・・さすがは晴明の孫といったところか”
「あぁ・・《
襲い掛かってくる妖を片手で吹き飛ばしながら二人は言う。
貴船の本宮に水神高淤加美神の神気が渦を巻いていた。
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