ヴァイオリンソナタ第一楽章"友情"
その青年に出会ったのは教団から出て数年後のことだった。「白月、また行くの?」
「あぁ。最近ここらへんでもアクマの噂を聞くからさ。とりあえずはって。用心に越したことないだろ?」
「まぁね」
白月はエクソシストである。彼のイノセンスはヴァイオリンに加工され、彼のもとにあった。
が、ある事件をきっかけに教団を抜け、今は双子の兄とともに小さな町で暮らしていた。
そして彼は毎日町を見下ろすことができる丘の上でヴァイオリンを奏でていた。
今日もそこへ行き、ヴァイオリンを奏でようと一本だけ立っている大樹の元に近寄る。と、その根元に誰かが座っているのが見えた。
「先客?」
白月の声が聞こえたのか、顔をあげる。
白月と同じく黒髪黒目の青年。そして・・・・・・
「教団の団服・・・・」
「えっ・・・・」
青年が驚いたように声をあげたときだった。白月はヴァイオリンをかまえ、奏で始める。
直後どこからか爆発音がした。
「ふぅ・・・・町のほうにいたのか、あぶねぇ・・」
「お前、そのヴァイオリン・・・」
「そっ、イノセンスな。俺、朱雀院白月。お前もエクソシストだよな」
「・・・・・・禊祈良だ」
「祈良か・・・・・・俺は朱雀院白月。呼び捨てでいい」
白月はヴァイオリンを持って祈良の隣に座った。
「この町には任務で?」
「あぁ」
「・・・・・・なんだかすげぇ懐かしいな、エクソシスト見るの」
「っておまえ自身がエクソシストじゃないのか」
「・・・そうなんだけどさ・・・・俺たちは教団抜けたから、厳密に言えばエクソシストじゃない?」
「疑問形かよ・・・・・」
祈良はそう言って軽く笑った。白月もその笑みにつられるようにして笑う。
やがて笑い終えた二人はそのまま静かに丘を流れていく風を感じていた。
「そろそろ戻らないとな・・・・」
「あぁ、祈良」
「うん?」
「一度だけ聞かないか、俺のヴァイオリン。これでも長く付き合っているからいい音だと思うんだけど?」 「・・・・・・聞く」
祈良は座る。白月は立ち上がって軽く調律を行う。
そして祈良のほうをむくと優雅に一礼してヴァイオリンを構えた。
その調べは水の流れに似ていた。
"ヴァイオリンソナタ"
演奏を終え、白月は一息つく。
「どう?即興で弾いてみたんだけど」
「即興?じゃぁ、白月が・・・」
「時々作曲やってるから」
「題名は?」
「・・・・・・"ヴァイオリンソナタ第一楽章'友情'"・・・・・・とか?うわっ、なんか自分で言ってかなり照れる!!」
祈良は笑った。白月はしばらく何も言えないようだったが、やがて照れたように笑い出した。
「サンキュ、いいもの聞かせてもらった」
「あぁ・・・・・・・お前、教団にいるんだよな」
「うん」
「じゃぁこれ楽譜できたら、送るよ。お前に」
「・・・・・待ってる」
二人は軽くこぶしを打ち付け合った。
「・・・・・・白月」
「うん?」
「お前、教団に戻るか?」
「・・・・・・わかんねぇ。兄貴が戻るって言ったら戻るつもり」
「じゃぁ・・・・・じゃぁそのときはまたそれ弾いて」
「もちろん」
そして祈良が戻った後の黒の教団。
「祈良ーあんたになんか届いてるよ」
「ん、サンキュ」
祈良は封筒を受け取る。差出人の名は"朱雀院白月"
そして・・・・・
"我が友、禊祈良にこれを捧げる"
"約束のヴァイオリンソナタだ。誰かヴァイオリン弾けるやつがいたら頼んで"
「ありがとな、白月」
その日から教団にはヴァイオリンの音色が流れるようになっていた。
Fis、香様へ贈り物です。
香様宅の祈良君とコラボさせていただきました。いかがでしょうか?
コラボものは初だったので緊張しています。
香様、これからも頑張ってください!