A Cherry Tree
ハラリ、ヒラリと桜の花びらが舞う。

しかし今はそれを綺麗だなぁと見ている場合ではない。

は走っていた。待ち合わせの時間まであと残り五分もない。

「また怒られるぅぅ!!」

恋人ができてからこのかた、待ち合わせの時間にはよく遅れていた。そのたびに彼に怒られるのだ。

「今度は絶対に遅れないって決めてるのにっっ!」

出かけようとするたびに思うのだ。彼と自分は住む世界が違う。また今日も待っていてくれるのだろうか、と。

「修〜!!」

待ち合わせ場所の駅前にある桜の木の下。そこにの恋人が不機嫌そうな顔をして立っていた。がほっとしたのもつかの間、恋人から怒声が聞こえた。

「お前、なんっで毎回毎回遅刻するんだよ」

「こっ今回は遅刻寸前だよっ!」

「・・・・・・もっと余裕を見て行動しろよ」

彼は溜息交じりに言った。はちょっとだけシュンと俯く。

?」

「ごめんね、修・・・・毎回毎回待たせて・・・・修もお仕事あるのに」

「別に気にしてねぇよ。それよりも今日どこに行く?」

「空座町桜めぐり!」

は元気よくそう言った。

「・・・・お前本当に桜好きだな」

「うんっ!」

花を見るのも好きだが、もっと好きになった理由は他にもある。


一ヶ月ほど前。が友達の家に行った帰りのことである。

「遅くなっちゃった・・・・」

は親が経営するマンションで一人暮らしをしている。両親は別の部屋に暮らしているため、遅く帰ってもなんら問題はなかった。

「・・・・・・人?」

マンション近くの公園に大きな桜の木がある。はその桜が幼い頃から大好きだった。悩みがあったら、その桜に相談していたこともある。

その桜の木の根元に誰かが腰をおろしているのだ。は興味半分で近寄っていった。

「あの・・・・・・」

が声をかけると顔をあげた。左目の下に69"という刺青が見えた。

「お前、俺のことが見えるのか・・・・・」

オレ、と言うからには男なのだろう。ぼんやりとした明かりで見えた顔に赤い筋がはしっていた。

「あなた、怪我してるの?」

「あっあぁ・・・・・」

見れば、いたるところに怪我をしていた。はカバンからハンカチを取り出すと、右腕にしばりつけた。ざっと見た限りでは、そこが一番ひどそうだったのだ。

「うちにきて。怪我の手当てをしなきゃ」

「俺が不審者かもしれないぞ?」

「私、怪我をしている人を見つけて放っておくような人間じゃないの」

そう言ったとき彼は小さく笑った。

「何がおかしいの?」

「いや・・・・・」

「そうだ。あなたの名前を教えて。いつまでも"あなた"じゃなんとなくいやだわ」

「修兵・・・檜佐木修兵」

「私はよ」

・・・・・・・・」

彼はの名を繰り返した。


それから家に戻って修兵を手当てしてやったのだ。そして彼が死神と呼ばれ、とは違う存在だと知った。

それでもは修兵のことを好きになっていた。

「ねぇ修・・・・」

「うん?」

修兵ものことが気になっていたらしい。

彼の手当てが終わった後、修兵は自分の住む場所へ戻っていった。再会はすぐだった。

死神を見ることができる=霊力を持っていたは虚に狙われたのだ。殺されかけたを助けたのが偶然に派遣されていた修兵だった。

「好き」

彼を見て、は思わずそう言っていた。修兵が唖然としていたのがわかったが、言わずにはいられなかったのだ。

「あなたが・・・・・・好き」

「・・・・・・俺も」

修兵もそう言った。はあまりの嬉しさに泣き出してしまった。

それから修兵はごくたまに現世へ来て、義骸というものに入り、との時間を楽しんでいる。

「綺麗な桜だね」

「あぁ」

は修兵をむいた。

「ねェ修」

「うん?」

はそっと修兵に擦り寄る。

「もしも私が修の住む世界に行ったら・・・・・あのね・・・・・・女の私がこんなことを言うのもあれなんだけど・・・・

 結婚して?」

修兵はいきなり言われた言葉に唖然とした。しかしすぐに嬉しそうに笑った。

「あぁ。でもな・・・自殺なんかするなよ」

「頑張ります・・・・」

「俺はまぁ気が長いほうだからな。待っててやるよ」

「うんっ!」

は修兵に抱きついた。修兵は苦笑しながらもを抱きしめた。

・・・・・・」

「ん・・・・・」

桜の花が風でいっせいに舞い上がった。無数の花びらは二人の姿を隠す。

花びらが消えたあと、の頬は真っ赤に染まっていた。

●●●●●
絶句・・・・・・
長くなってしまいました・・・・・・

ゆき様へ、相互の贈り物です
かなり遅くなりました。もう既に春越して夏終わりかけてます
こんな修兵夢でよければお持ち帰りくださいませ。
今後ともこのサイトともども宜しくお願いします