小さな嫉妬
アレンは大樹の根元で眠るに気がついた。その手の中には小さな本が大事そうに抱えられていた。先日双子の誕生日にアレンが贈ったものだ。確か詩集だったと思う。
「まったく、あんなところで寝ていたら風邪ひくじゃないですか」
アレンは溜息をつくとのそばに近寄った。
はすやすやと寝息を立てている。
起きていると顔立ちが整っているのがわかるが、そうでないときは、どこか幼さを感じる。
長いまつげが隠す瞳はどこまでも深い闇の色だ。
「、起きてください」
アレンはをゆすった。は小さなうめきをあげて目をあける。
その瞳が自身を捕らえたと思った瞬間にアレンはに抱き締められていた。
「わわわわわわ、?!」
アレンは真っ赤になってを押し話そうと必死になる。
が、のほうが力が強い。
「紫苑・・・」
はアレンの耳元でそう呟いた。
アレンはピタリと動きを止める。
「なんで・・・・」
「・・・・?」
はアレンを見て驚いたように目を丸くする。
その口が何かを言おうとするのにそれは言葉にならなかった。
「どうしたんですか」
アレンもそれだけしか言えなかった。
は、当人も何故アレンを抱き締めているのか不思議なのだろう、手を放した。
「アレン・・・僕何か言った?」
「・・・・」
アレンは何も言えなかった。黙っているとがアレンに触れた。
「僕が好きなのはアレンだけだからね」
「いやというほど知っています」
アレンはうなずいた。
はどこかほっとしたように目を和ませるが、まだ不安定なようである。
「・・・・紫苑さんって誰ですか」
気がつけばそうたずねていた。
が驚いたようにアレンを見た。
アレンは自分が聞いてはいけないことを聞いてしまった気がした。
「そっか・・・アレンにはまだ教えていなかったね。彼女は僕の・・・」
アレンはぎゅっと目を閉じた。聞きたくないと思ったのだ。
「師匠だよ、武術の」
「えっ?」
アレンは驚いてをまじまじと見た。
はアレンの顔を見て微笑む。
「もしかして妬いた?」
「っ!誰があなたのために妬くんですか」
アレンは赤くなった顔をそらす。
「紫苑はクロス元帥みたいな人でね、今はどうしているかな」
はアレンを見てぎょっとしたように体を強張らせた。
「アレン?」
「あ、れ・・・・」
アレンはこぼれる涙を必死で拭う。
はアレンの手に触れるとそっと微笑んだ。
「そんな風に泣くものじゃないよ、アレン・・・・僕の抑えが利かなくなる」
「・・・・・」
はニコッと笑った。
指先がアレンの髪をはらう。
「僕に襲われたいっていうなら別だけどね」
「あなたは、そうやってすぐ僕をからかう」
「からかっているつもりはないんだけどね」
の指はアレンの唇をなぞる。
アレンはゆっくりとの指をくわえた。
は小さく息を呑むが、アレンのするままにさせていた。
「ん・・・・・っ、のせいですから」
「僕が強制したんじゃないよ」
「でもあなたの責任です。ちゃんと責任とってください」
は意地悪そうに微笑んだ」
「いいんだね」
「はい」
はアレンの腰に腕を回す。
「一緒に楽しもうね」
そう言ってはアレンに口付けたのであった。