漆黒の海面に落ちる六の月
はただ人だ。エクソシストでもなく、ノアでもない。 でも俺は、が好きだった。 「〜遊ぼ〜」 「ロード・・・・・だめ、まだ仕事が残ってるの」 「なんの?」 「エクソシストたちの調査」 「え〜〜〜〜」 は不満げなロードの頭を軽く撫でて書類を抱えたまま歩き出す。 小さく溜息をついて足は止まった。 「なにやってるんだろ・・・・・」 「なぁにが〜?」 「きゃっ」 は背後から聞こえてきた声に飛び上がった。 その拍子に持っていた書類の束がバサバサと落ちる。 「あぁっ!」 「あっ悪い・・・・」 が拾い始めるのと同時に別の手が二つ、書類を集める。 「んもう、ジャスデビ、背後からいきなり驚かさないでって毎回言っているでしょう?」 「ヒヒ、、仕事おわった?」 「終ってません」 「出かけない?」 「どこに」 「どっか」 「いや」 はそう言うとさっさと歩いていく。 ジャスデロとデビットは面白くなさそうにの後姿を見ていた。 はその視線を背で受けながらも溜息をついていた。 仕事が進まない。 「デビット、ジャスデロ。部屋に来てお茶飲んだらすぐ帰る?」 「ヒッ!もちろん!」 「おぅ」 とジャスデビは彼女の部屋にむかう。 きちんと整理された部屋は白で統一されていた。 はキッチンに入るとお湯を沸かし始める。 ふとデビットはベッド脇に置かれた棚の上に飾られた写真に目を向けた。 そこには青空とともにと青年が笑って映っている。 「・・・・・」 「気になる、デビット」 「・・・・・・」 はジャスデロにお茶の入ったカップを渡した。 「それ、私の元恋人。でも・・・彼浮気してたんだ」 なんの感情もいれずに彼女は言っている。 デビットはふとその横顔を伝う涙に気がついた。 「私、気がついたら彼を殺してた。浮気相手のほうが、怒って彼をアクマにした」 「・・・・・・」 デビットはの頬に触れた。 「好きだ・・・」 「デビット?」 「のことが・・・」 は眼を見開いた。 デビットも自分の口を押さえる。 「・・・・・」 は悲しそうな笑みを浮かべた。 「ごめんね・・・・しばらく、考えさせて」 「うん」 だが、デビットがの答えを聞くことはなかったのである。 「なんだよこれ・・・・」 時間が経って黒く変色した血の海に浮かぶ六つの物体 それはさながら漆黒の海面に浮かぶ六つの月のごとく 「だな・・・・」 ティキが傍らで言った。 デビットはよろよろと血の海に踏み込んだ。 一番大きなものを手にとって、血を拭う。 そこには、閉じられた瞳があった。見慣れた顔つきである。 「・・・・・・」 「エクソシストかな?」 「いや・・・・恐らくはアクマだろう」 「でもさぁ、ティッキー。アクマならの体はここには存在してないはずだよ」 ロードの声もティキの声もなにも聞こえなかった。 デビットはただ冷たく硬くなったの躯を抱き締めていた。 「・・・・なぁ、・・・・・愛してる」 その唇が言葉を返してくれるわけでもないけれど・・・・・・