あなたに幸を
ルシファーは木に寄りかかってうとうとするユウラの姿に気がついた。
近寄ってもいっこうに目覚める気配がない。
「ユウラ・・」
声をかけてみるものの、答えはない。
よほど深くまで意識を落としているようだ。
「目覚めなければ、何かをするぞ」
脅しも聞こえない。
ルシファーは小さな笑みを見せるとあらわになっている首筋に手を滑らせ、唇を落とした。
「んっ」
小さくユウラが反応する。
ルシファーはもっと強く吸い付いた。
「はっ、あぁ・・・」
ユウラはぴくぴくと震え、目を開けた。
涙で少しばかり潤んでいる。
「ルシファー様?」
「気持ちよさそうに眠っていたな」
ユウラの頬が紅潮する。
ルシファーは愛しさからユウラに口付けた。
「ひどい・・起こしてくれても」
「気持ちよさそうに眠るお前の邪魔はしたくなかった」
ユウラは赤面したが、ルシファーを見上げた。
「私に何か御用では?」
「忘れていた。ハープを奏でてくれないか?」
「ハープですか?無論かまいませんが、楽器が・・・」
「私のもとで」
ユウラはしばらく逡巡していたが、やがて小さくうなずいた。
差し出されたルシファーの手につかまると、ユウラは立ち上がる。
「ユウラ、近頃のゼウス様をどう思う」
「・・・」
「お前の前の主はクロノスだったな」
「私が忠誠を誓っているのはあなただけです、ルシファー様」
「どれはどういう意味で?」
ユウラは小さく微笑んだ。
「心も身体も支配できるのはあなただけということです」
ルシファーはユウラの身体を引き寄せ、口付ける。
ユウラはうっとりと目を閉じた。
「ユウラ、私を愛しているか」
「はい」
「私だけを求めるか」
「はい」
ルシファーは微笑むとユウラから離れた。
ユウラはゆっくりとまばたく。
「ルシファー様?」
「お前は私にどこまでもついてくるか」
「それがあなたの望みであれば」
ルシファーはユウラの瞳に宿るどこか悲しげな光に気がついた。
優しく頬に触れると、ユウラの瞳から涙がこぼれる。
「ユウラ」
「ごめんなさい・・・泣くつもりはなくて」
必死に涙を拭おうとするユウラに口付けを落とし、ルシファーは微笑む。
ユウラはルシファーに抱き締められ、小さな嗚咽をこぼした。
「不安を与えてしまったか」
「いいえ・・・私が少し動揺してしまっただけです」
「動揺?」
「夢を・・・・・今と同じ光景を夢で見たのです」
崩壊の夢だ。
天使が数多く死に、ユウラの愛するこの天使は地獄に落とされた。
ユウラにとっては無力な自分に胸が引き裂かれる想いがする夢だった。
「ルシファー様・・・・愛しています」
「あぁ、わかっている」
指がからまりあう。
ルシファーは何度もユウラに口付けた。
ユウラも懸命に答えようとする。
「どこまでも堕ちるか、私とともに」
ユウラは新たな涙をこぼし、うなずいた。
「私のすべてをあなたに捧げます、我が君」
その言葉がやぶられることをユウラは知っていた。
それでもこの瞬間だけはどこまでもあなたと共に。
ユウラは微笑んだのであった。