成長

「ユダ、ルカ」
「ユウラッ」

岩の上にたっていた少年天使たちは背後に姿を見せた美しい成年天使に笑みをむけた。
成年天使のほうも優しい笑みをたたえて、少年たちに近寄る。

「どうかしたのですか」
「いえ。明日、成年天使になれるのだな、とルカと話していたところなのです」

赤い髪に額につけた二連のサークレットが特徴的な少年天使が言った。隣に立つ銀色の髪の天使もうなずいた。
ユウラは二人の天使の頭にそっと手を置いた。

「あなたたちならこの天界をよき方向へと導けるでしょう。ゼウス様よりも一足先に、あなたたちに祝福を」
「ユウラ・・・」

その翌日、ユウラはゼウスの隣にたっていた。目の前には選ばれた少年天使たちがいる。
ゼウスはその一人ひとりを成年天使へと変えていった。ユウラは彼らのことを自愛に満ちた瞳で見つめていた。

「ユウラ」
「はい」
「お前からも祝福を与えてやるといい」
「・・・・・えぇ」

ユウラの前に一人ひとりの天使たちが並ぶ。ユウラはゆっくりと彼らに祝福を与えて行った。
ユウラの手先に集まった光が天使たちの体を包み込み、はじけて消える。
ユウラはたくましい姿になったユダを見上げた。昨日までは自分よりも背の低かった天使を見上げなければいけない。

「素敵ですよ、ユダ」
「まさかユウラを見下ろすことになるとは思いもしなかったがな」

ユウラは小さく笑うとユダの額に指を当てた。光はユダの額から体を包み込んでいく。

「"麒麟のユダ"いつかあなたは闇を生むでしょう。ですが、恐れてはいけません。あなたはあなたの信じる正義を貫きなさい」
「ユウラ?」

恐らくはユダ以外には聞こえないほどの声量でユウラは言った。ユダはユウラの顔を凝視する。

「私はあなたの味方ですよ」

ユウラは次に青と赤の瞳を持った天使のそばへ寄っていった。

「"青龍のゴウ"あなたは天使たちに信頼される。その強い意志は誰にも曲げることはできないでしょう」
「えっ・・・・・・」

ユウラは微笑むとその隣の天使へむいた。
青の長髪の天使だ。

「"玄武のシン"あなたの優しさは闇を持つ天使を癒し、あなたの音色は天使の心を和ませる。忘れないでください、あなたは非力ではないことを」
「はい」
「"朱雀のレイ"あなたは誰かを目標とすることで強くなることができる。翼を持ち、空を翔けることができる稀な天使。あなたのその力十分に発揮してください」

数人の天使を経てユウラはまた呟いた。

「"白虎のガイ"あなたの明るさは周りをも明るくする。ですが、己は傷つきやすい。誰かのために傷つく心を忘れないで」

ユウラは銀色の長髪の青年と向き合った。

「"鳳凰のルカ"罪の証であるあなたですが、あなたは信念を貫くことができる。己よりも誰かを案じるその思いやりと優しさは稀なもの。ですが、あなたもいつか闇に囚われる日が来るでしょう」

すべての天使に祝福を与え終わったユウラはまたゼウスの隣に立つ。
自分が呟いた未来は完全なものではない。だが、不完全というわけでもない。
彼らが互いを知って、ゼウスを知って、天界を知るとき、またユウラは親しい仲になるであろう彼らに剣をむけるのだ。

「このまま平和な時が続けばいいのに・・・」

ユウラのつぶやきは誰の耳に届くこともなかったのである。
BGM:プレシャス・ガーデン&優しき日々よ Song by.Trembled Melodies