悲壮に暮れる空
ユウラは呆然とその場にたっていた。
戦いのあとは天界に無残な傷跡を残して行った。
ユウラの瞳から絶え間なく涙が溢れている。
「ルシファー様・・・・」
胸元の傷からは絶えず血が流れている。いつかこの傷は癒えるだろう。
だが、もっと大きな傷をユウラは受けた。
「・・・・・何故です」
その場にいない天使にユウラは問うた。
「何故・・・・何故争いを持ち込んだのです」
ユウラは自らの体を抱き締めて、ひざをついた。あとからあとから涙が溢れてくる。
涙の小さな泉に紅の血が落ちた。
裁きの時は終わりを告げた。大神に反逆した天使たちは地獄へと堕ちた。
「何故っ!」
倒れ掛かったユウラの体を誰かが支える。その腕の感じは誰かを彷彿とさせた。
「ルシファー様・・・」
意識が遠のく中でユウラが最後に見たのは二連のサークレットの光だった。
「ユウラ・・・・・・・」
優しい低めの声にユウラは目を開ける。
見えた優しげな面差しに今までのことは夢だったのだ、と考える。あの天使が自分のそばからいなくなるはずがないと。
だが、すぐにその幻は消えた。
「ユダ・・・」
「傷は手当をしておいた。痛まないか?」
「・・・・・・えぇ」
ユウラの瞳から涙がこぼれた。それを見たユダが慌てたような顔をする。
「大丈夫ですよ。少し・・・・・ショックを受けただけです」
「ユウラ・・・・」
「たくさんの天使が死んだのでしょう?」
「・・・・・あぁ」
「ルシファー様とガブリエルは堕とされたのでしょう?」
「・・・・・・・・あぁ」
「・・・・・・」
ユウラは自らの胸に手を当てた。
ルシファーから受けた傷が残っている。恐らくこれは癒えることはないだろう。
「大丈夫か、ユウラ」
「えぇ、大丈夫ですよ」
「泣きそうな顔をしているな」
ユダはそっとユウラの頬を撫でた。ユウラの涙はあとからあとから出てくる。
「空を・・・」
「えっ」
「空を見てユダはどう思いますか?」
「どう思うか?」
「はい」
「・・・・・・明るいな」
「それだけ?」
「あぁ」
「そうですか・・・」
ユウラは顔をうつむかせた。ユダは不安そうな顔になる。
「ユウラはどう見えるんだ?」
「泣いているように見えます」
「・・」
ユダはユウラから空へと目を向けた。
雲ひとつない青空だ。たいていのものなら、いい天気だと言うだろうに、ユウラは泣いているように見えるといった。
「私の願望なのでしょうが・・・」
「ユウラ・・・」
「少し泣いたら落ち着きました。ゼウス様のもとへ行かなければ・・・・」
ユウラは寝台から降りた。ユダが手を貸そうとするがユウラはそれを拒んだ。
「手当てをしてくれてありがとうございます、ユダ」
「ユウラ・・・」
「また、あとで」
ユウラはそういうとゼウスのもとへ行ってしまう。
その傷だらけの姿がユダには痛々しく思えたのであった。
BGM:零れる清き涙・悲壮に暮れる空・崩壊の運命 Song by.Trembled Melodies