第十四話

「セラ」
「ユウラッ!」

飛びついてきたセラに笑みを見せながら、ユウラは単刀直入に問いただす。

「ゴウが好きですね?」

音を立ててセラが固まる。
図星か、とつぶやきながらユウラはセラの肩に手を置く。

「セラ、天使と人間は違いますよ?」
「知ってる」
「・・・・・」
「ユウラは人だよね。天使様を好きになったことはないの?」

ユウラは一瞬あっけにとられた。どうやらセラはユウラのことを人だと思っているらしい。
別にかまわないが・・・・

「人が人を好きになるのは自然なことだよね。人が天使様を好きになることは自然なことじゃないの?誰かを想う事はいけないこと?」
「・・・そんなことは」
「私、人と天使の時間の流れ、知ってるよ。前にラキが来たとき、教えてくれたから・・・・でも、私はそれでもゴウさんが好き」

ユウラは溜息をついた。
二人の恋を成就させないようにと、下界に下りてきたのに、どうやら自分は間違ってしまったようだ。

「まったく・・・・・・恋のキューピッドなんて私のがらじゃありませんよ」
「ユウラ?」
「わかりました・・・・あなたの恋、応援しますよ」
「本当?」
「私も一人の人を愛していますから・・・・あなたの気持ちはわからなくもありませんしね」

セラの顔が輝く。
彼女に飛びつかれ、ユウラはいささか困ったような表情をする。

「ありがと、ユウラ」
「いえ、かまいませんよ。では、そうと決まったら早速行くところがあるので・・・」

天界に戻ってゴウをけしかけなければいけない。双方がうじうじとしている間に時はどんどん過ぎていくのだ。
自分をキューピッドのように思ってしまったユウラは少しばかりへこむ。

「ユウラ?」
「何でもありませんよ。さて、あっほら、セイのことを呼んでいる人がいますよ」

セイが振り向く。確かに一人の少年がセイのことを呼んでいた。
セイはユウラを振り向くと笑顔になる。

「ごめんね、ユウラ。また」
「えぇ」

セイが少年のところに駆けていくのを見たユウラは天界に立ち戻る。

「ゴウ」
「どうした、ユウラ」
「・・・・・・うじうじしているなんて、あなたらしくありませんよ」
「何がだ」
「私に同じ話を二度もさせる度胸がご自分にあるとでもお思いですか?」
「いや、ないな」
「では、させないでください」

ユウラはゴウの隣に座る。
二人で目の前の草原を見ていた。

「ゴウ・・・・・人と天使は違うと先ほど言いましたが・・・あれ、訂正してはだめですか?」

ゴウはぎょっとしてユウラを見た。
珍しくユウラがしおらしい。ガイがしおらしいのよりも、もっとしおらしい。
いや、珍しい。
そんなゴウの考えを知ってか知らずか、ユウラは少しばかり顔を曇らせている。

「人も天使も誰かを愛する・・・それは変わらないこと。相手が天使だろうと人だろうと同じことですね・・・・想うことは罪にはなりません」
「ユウラ・・・・」
「私も同じですしね」

想うことが罪ならば、自分はいったいいくつの罪を重ねてきたのだろう。
決して交わることのない道を持つ二人だからこそ、魅かれあう。

「さっさと地上に降臨なさい。ほら、命の泉の雫をあげますから」
「ユウラ・・・・・」
「セラは私にとって妹のような存在です。泣かせたらもちろん、容赦ないのでそのことは心に刻んでおいて下さいね」

ニコッと微笑んでゴウに泉の雫を差し出す。
ゴウはユウラと雫を見比べながら、笑顔になった。

「すまない」
「貸しは必要ありませんから」

ゴウはユウラが渡した泉の雫を使って下界に降臨していった。
これで二人は幸せになれるのだろう。

「だから、キューピッドじゃないんだって・・・・」

ユウラは溜息とともにそう呟くと神殿へと戻って行ったのであった。