第五話

「シン」
「ユウラ様・・」

神殿内の庭園にある噴水に腰掛け、シンはいた。
ユウラはその側に近寄っていく。

「私と一緒に来てはくれませんか。紹介したい天使たちがいるのです」
「はい」

シンを伴って部屋に戻ったユウラはさんさんたる有様を目に入れる。
部屋の家具のところどころが壊れ、床にはユダやルカが呆然とした顔で尻餅をついている。レイも何が起こったのかわかっていないようだ。

「な、何があったんですか・・・・・」
「わからない。突然光が爆発したかと思うと、気がつけばこれだ」

ルカはレイを助け起こしている。そちらは気にしないようにしておこう。ユウラは額に手を当てて溜息をついた。
大体の犯人は見当がついている。あとでしっかりとしめておかなければ、これから先なんども部屋を修理しなくてはならなくなる。

「まずは片さないとお茶をゆっくりと飲めませんね」

ユウラはレイとシンに顔をむけた。二人は心得たようにうなずくと急ぎ足で部屋を出て行く。
ユウラはそれを確かめると軽く窓の外をにらんだ。二つの気配が遠ざかっていくのがわかる。

「怪我はありませんか、二人とも」
「あぁ。かろうじてな」
「まったく・・・・・悪戯にもほどがあるというものです」

少し怒ったような顔でユウラは溜息をついた。ユダが苦笑する。
やがて神官たちがユウラの部屋を直しにきた。
レイとシンを含めた五人は庭園に出る。

「そう、そういえばレイ、シン。頼みがあるのですがいいですか?」
「はい。なんなりと」
「いつものクスリに使う薬草が足りなくなってしまったのです。急ぎ東の森で採ってきてはくれませんか」
「かしこまりました」
「それと・・・・」

ユウラはユダとルカをむく。二人はなんとなく嫌な予感を覚えた。

「東の森では最近悪い噂しか聞きません。二人とも、シンとレイについていってくれますよね?」

ついていくのが当たり前でしょう、というユウラの言葉が言外に聞こえてきそうだ。
ユダとルカはうなずいた。ユウラは微笑むと籠をシンに渡した。四人はそのまま翼を広げると東の森へ向かって飛んでいく。
それを見送ったユウラは背後をむいた。そこにうなだれる二人の天使がいた。

「ガイ、マヤ・・・・あれほど悪戯はいけないと言ってあるでしょう」
「ごめんなさい・・・」
「今日は怪我人が出ませんでしたが、このままではいつ怪我人が出てもおかしくありません。もうこれっきりにしておいてくださいね」
「はい」
「それとゴウとキラには報告しておきますからそのつもりで」 

ユウラの言葉に二人はビクッと震えたが、ユウラの顔を見ると文句を飲み込んだ。
ユウラは二人の頭に手を置くと目線を合わせた。

「あなたたちのことを信じていますよ」
「・・・・・はいっ」

ガイとマヤはそう言って駆けて行く。元気な天使たちだなぁ、とユウラは呟いた。
その肩にルウが姿を見せる。

「ユウラは甘いね」
「そうでしょうか」
「うん。そして結構策略家」
「ありがとうございます」
「別に褒めてないけど」
「別に褒められているとは思っていませんよ」

ルウは呆れたように溜息をついて姿を消した。
ユウラの頬を風がなで、その手の中に一枚の羽を落としていく。

「どうやら、今宵も・・・お相手しなければいけないようですね」

ユウラはそう呟くと羽をまた風にのせ飛ばしたのであった。