第九話
「ユウラ、無事か」
「生きているのを見ればわかるでしょう?」
荊をきりながらたずねてきたラキにユウラは言った。
白い肌に棘が突き刺さっている。
「ユウラ様っ!」
「シン、レイ、パンドラ、カサンドラ・・・すみません、心配をおかけして」
「そんなこと・・・・・」
「下がっていなさい。すぐに終わらせますから」
四人はうなずいた。
ユウラは矛を手に、ラキと並ぶ。
かつっと二人の武器が触れ合った。
「容赦はありません。あるわけもないのですが」
にこっと美しい笑みを浮かべているユウラに、ラキは微笑みかけた。
背後でその様子を見ていたユダとルカ、親衛隊の面々は嫌な汗を覚えた。
「・・・・ふふっ、私を殺せると思って?」
「やってみないとわからないじゃないですか。それともなんですか、私たちの力があなた如きにやられるとでも?」
「侮るなよ、悪魔。魔物だろうがなんだろうが、俺たちに傷一つつけることはできやしねぇよ」
リリスはその言葉を聞いて、笑んだ。
刃を手首にあて、想いっきり引き裂いた。
ぎょっとする面々を見ながら、リリスは呟いた。
「私の可愛い子供たち。出ておいで・・・ご飯がいっぱいよ」
地面に零れた地から、グロテスクな生き物達が出てきた。
身体は半分溶けかけ、牙を光らせる。
「さっさと片付けましょう、ラキ」
「あぁ」
矛を振りかぶったユウラ、剣を一閃させたラキの攻撃で大半が消える。
ユダとルカもそれぞれ剣を振りかぶる。
「くっ・・・・」
「あなたと私は対・・・それでもいいです。そしてこの天界の運命を変えたこと、私は後悔していました。でも・・・・今はもう後悔していません」
「何故!あなたと私は同じなのに。あなたはもっと強くなれるのに」
「なる気はありません。ごめんなさいね、だから・・・あなたには死んでもらいます」
ユウラの矛がリリスを貫いた。
「ぐっ・・・」
「私の今の幸せを壊さないで下さい。大切な人を傷つけないで下さい」
「ユウラ・・・・・」
「あなたが私の大切な人を傷つけるのなら容赦はしません」
リリスの腹部から矛が抜かれる。
ユウラは矛から血を拭い去るとリリスを見た。
「ゼウス様も私にとっては大切な方です。あなたに、触れさせはしませんよ」
「知って・・・・・」
「私をあなどらないでいただきたいものですね。これ以上、問題を起こしたら私とラキの使役魔を使ってでもあなたをあぶりだすつもりでした」
「親衛隊にもいくつか魔物を忍び込ませていただろう。バレバレなんだよ」
リリスの顔が憎しみにゆがみ、そしてその身体が消滅した。
ユウラとラキはそれぞれの武器をしまう。
「ユウラ・・・・」
ユダが不安そうな顔でユウラを見た。
ユウラは小さく微笑む。
「怪我はありませんか」
「そこで俺たちの心配をするよりも、自分の心配をしたほうがいいんじゃないのか」
ユウラはきょとんとしてユダを見た。
擦り傷が多いユダやルカに比べて、ユウラのほうが圧倒的に重傷だ。
棘が身体のいたるところに刺さって痛々しい。白い肌に血が流れている。
「ユウラ様、すぐに消毒を」
「あぁ・・・そうですね、すみません」
ユウラは今まで痛みを感じていなかったのか、軽く首をかしげている。
ラキが苦笑して、ユウラの腕に唇を寄せた。
「っ・・・・」
「毒、入ってたらやばいだろ?」
「それはそうなのですが・・・・・私の手当ては後です。パンドラ、カサンドラ、怪我をした天使を一箇所に集めなさい。ラキ、親衛隊も同じくです。すぐに手当てをしましょう」
「ユウラは」
「ゼウス様のことが心配です。すぐ戻りますから、後は頼みます」
「わかった」
ユウラは神殿にむかった。不安だ。
あの悪魔がゼウスに取り入っていると知ってから、不安が渦巻いている。
何もなければいい。ゼウスもユウラにとっては大切な存在だ。
その想いは伝わっていないだろうけど。
「ゼウス様・・・・」
あなたを思う気持ちに偽りなどありません・・・