第八話
聖霊祭が始まる。ユウラがゼウスの傍らに立ち、祭りを楽しむ天使たちを見た。
「ユウラ」
「はい」
「そろそろ準備をするか」
「あぁ・・・はい」
ユウラはゼウス目を向けると微笑んだ。
神殿から下の広場にむかい、ラキを合流する。
「用意は」
「できてますよ」
二人は神殿のゼウスに一礼して、それぞれの楽器をかまえた。
ユウラの笛が旋律を奏でるとラキの竪琴がそれにあわせる。
「はじまったようだな」
今まで広場で楽を奏でていた天使たちが手を止める。
どの天使も二人の音色に聞き惚れていた。
「ユウラ様の笛の音色を聞けるなんて」
誰もが笑顔になる。が、幸せな空気は一瞬のついに崩れていた。
どこからか悲鳴があがる。
「なっ・・・」
「魔物の大群?!」
その場が混乱に陥る。ユウラは声をありあげて神官たちに一箇所に集まるよう指示した。
ラキも広場にいた女神親衛隊に指示を飛ばし、この場を落ち着かせるとともに自らも翼を広げ、魔物のもとにむかった。
「ユウラ様っ!」
「落ち着きなさい。隙を見て姿を隠すのです」
「ユウラ様は」
「私はこの場に残ります。パンドラ、カサンドラ、皆を頼みます」
ユウラはそう言うと走って混乱の中に入っていってしまう。
指示を受けた二人は手早く神官をまとめる。
「ラキッ」
「魔物の数が多い!俺たちだけだと手が回らない」
「ユウラ」
「ユダ、ルカ」
ユダとルカがユウラの背後に立っていた。
ユウラはうなずく。二人も翼を広げ親衛隊とともに魔物を倒し始めた。
それを見ていたユウラは背後からの殺気に振り向いた。
そこには黒いドレスを身にまとった女がいた。
「この天界に女性はいません。あなたは悪魔ですね」
「私の名はリリス。あなたならご存知ではなくて?」
ユウラの手に銀色に輝く三椏の矛が顕れた。
「神が創った最初の人間アダムの妻ですね。ですが、堕天した」
「えぇ」
リリスは微笑んだ。ユウラの翼が大きく広がる。
「あなたはユウラね。その瞳と髪。話にあったとおり」
ユウラのまわりを 魔物が取り巻く。
「どこから入ってきたのか存じませんが、聖霊祭を穢した責任取っていただきます」
ユウラが動くと同時に魔物も動く。ユウラの髪に魔物の体液が飛び散った。
「さすがは女神ガイアの息子・・・・低級ではなにもできないか」
リリスの手が動く。途端に地面からはえた荊がユウラを拘束する。
ユウラの手から矛が落ちた。
リリスは荊に羽交い絞めにされるユウラを見て微笑んだ。
「ゼウスの記憶を失くしたのはあなたね」
「答えてやる義理はありません」
ユウラがそう言うと荊がユウラを締め上げる。
ユウラの白い肌に赤い血が伝う。
「素敵・・・美しい顔が痛みに歪むその表情」
ユウラは痛みに声をあげなかった。それは空中で戦うラキ、ルカ、ユダに迷惑をかけないためである。
「ユウラ様っ」
「っ、パンドラ、カサンドラ!!」
パンドラとカサンドラがリリスの背後に立っていた。シンとレイもいる。
「ここにいてはいけない!逃げなさい!」
「ユウラ様を見捨てるなどできません」
レイとシンが襲いくる魔物を倒す。動きが鈍いのは戦いの感じが戻っていないためだろう。
「目障りな天使・・・・」
「逃げて!」
「リリスの手があがる。パンドラとカサンドラが身構える。
攻撃技を持たない二人はやられてしまう。だが、今のユウラでは何もできない。
「やめなさいっあなたの目的は私でしょう?!」
リリスがユウラを見た。
「そう・・あなたよ。あなたが天界の運命を変えた。だから私はここにいる」
「なんですって・・・・」
「私はもう一人のあなた。私はあなたと一つになって完全と成る」
リリスはそう言ってユウラに手を伸ばした。
その手が消えうせる。リリスは耳障りな悲鳴をあげた。
ユウラのまなじりに涙が浮かぶ。
「リリスだかアブゼルだか知らないがユウラに触れるな」
「ラキ・・・」
剣をかまえたラキがユウラの前に、レイの前にルカが、シンの前にユダが、パンドラとカサンドラの前には親衛隊がいた。
「形勢逆転だな」
ラキの剣が不穏に輝いたのであった。