第四話

「ん・・・・・」

ユウラは肌寒さに振るえ、目を開けた。
そしてそこが生命の息吹を感じられぬ土地であることに気がつくとはっとして体を起こす。

「気がついたか、ユウラ」
「・・・ルシファー様」
「気分はどうだ」
「悪くはありません・・・・ですが、何故私はここに」

私が連れてきた、ルシファーがそう言うとユウラは身を強張らせた。

「・・・・・あなたは、ルシファー様じゃない。ラキが気がつかないのも無理はないですね・・・・」
「・・・」
「あなたは、誰ですか」
「・・・・ふっ、あはっ、あははははははっ!!」

耳障りな笑声が響く。ユウラは嫌悪感に顔をゆがめた。
ここは危険なのだと、直感が告げてくる。ユウラはどうにかして逃げ出そうと試みるが体が動かない。

「我が名はハク。ルシファー様にお仕えする堕天使さ」

そう言ってルシファーはくすんだ赤色の髪を持った天使の姿になった。瞳には狂気の光がある。

「そして、シキ。私もまたルシファー様にお仕えする堕天使だ。目障りなお前には死んでもらう」
「・・・・・・愚かな」
「なに?!」
「ルシファー様が振り向かないのはあなたたち自身のせいではないですか。私に八つ当たりしたところで何が変わるとも思えませんが」
「やかましいっ」
「それでも私を殺すのですか。私を殺せば、ルシファー様は躊躇なくあなたたちを殺しますよ」

一瞬ハクとシキに躊躇が生まれたが、二人とも手に剣をもってユウラにむかってくる。
ユウラは小さく溜息をついて、首を振った。それに闇に姿を消していた者たちは動きを止める。

「ぁっ・・・・・」

胸に走った衝撃にユウラは声を漏らした。そこへルシファーが姿を見せる。
ユウラの胸に剣をつきたてるハクとルナを見るとその顔に怒りを浮かべた。

「ル、ルシファー様・・・・・!」
「ユウラに手を出すな、と言ってあったはずだ・・・・・その誓い、たがえたことを後悔するがいい」
「ルシファー様・・・」

ユウラは胸から剣を抜いて、ルシファーを見た。傷口から血は流れ出しているが、ユウラは生きている。

「動けないのです・・・」
「・・・・・傷は?」
「少し経てば戻るかと」
「そうか」

ルシファーはハクとシキから目をそらすとユウラを抱き上げた。
ユウラは少しだけ顔を青ざめさせている。

「ルナ、ソラ、いますね・・・・・・あとを頼みます」
「はーい♪」
「何故・・・・死なない」
「・・・・・私の心臓は私の体の中にはありませんから・・・・・残念でしたね、私も死ねるかと期待していたのに」

ユウラとルシファーは闇に姿を消した。ハクとシキは絶望に顔を暗くする。

「さぁて、主を殺そうとした罪、その体で払ってもらおうか」
「僕たちは怖いよー?でも、ラキを騙したのは立派だったね。さすがは双子天使。互いの能力をあわせたら相当強くなるんだね」

二人の使い魔は邪悪な笑みを浮かべて天使を見た。

「さて、バイバイ♪主に怪我を負わせたこと後悔しながら死ぬんだね」

遠くから聞こえる悲鳴にユウラは小さく息をついた。ルシファーはそっとユウラの胸に手を滑らせる。
薄っすらと痕が残っている傷は先ほどまで血が流れていたとは思えないほど綺麗になっている。

「相変わらずだな」
「あれから一年ですから・・・・少しは耐性もついたというものなのですが・・・・」

ルシファーとユウラは、最後に会ってから天使たちの時間感覚で一年、会っていなかった。
ハクとルナが執拗にユウラを殺そうとしていたのだ。

「すみません、ルシファー様・・・死なないとわかっていても、あなたに心配をかけてしまった・・・・」
「いや・・・」
「ルシファー様・・・・抱き締めてくれますか?」
「あぁ・・・・・・」

ユウラはルシファーの暖かさに包まれる。ユウラはほっと息をついた。

「もう少しで聖霊祭なのです。皆、楽しみにしてましたよ」
「そうか」
「えぇ。心はここにおいていきます・・・・ルシファー様、あなたのもとに」
「ユウラ・・・・」
「眠い・・・・少しだけ、眠らせて下さい。ルナとソラが来たら起こして・・・・」

ユウラはルシファーの腕の中で寝入った。ルシファーはそっとユウラの頬を撫でた。

「私もお前の中に心をおいておける。ユウラ、愛している」

ゆっくりと落とされた唇にユウラの口元に笑みがこぼれたのであった。