第三話

「んぁああっ・・・・・・・んっ・・・ふぁあっ、あ、ああっ・・・・・・・」

ユウラはぎゅっと目をつぶって声をあげていた。
銀の髪が乱れ、ユウラの顔を隠す。

「愛している、ユウラッ」
「ゼウス、様っ・・・んぁっ・・・・ひゃ、あ、んくっ!んんっ・・んぁああっ」

ユウラは体を強張らせる。
白い肌に白い液が飛び散った。
達してから放心状態になっているユウラの頬をゼウスは撫でた。

「愛している」

ユウラは答えない。ゼウスの口付けにもユウラは反応しない。どこか魂が抜けたようになっていた。

「ユウラ?」
「ゼウス、様・・・・・・・」
「どうした。調子がおかしいようだが」
「いいえ。なんでもありません」

起き上がろうとするユウラの肩をゼウスは抑えた。再び寝台に押さえつけられたユウラは顔をゆがめた。

「もう眠れ」
「しかし・・・・」
「ユウラ」

ふっとユウラの意識が遠のいた。気絶するように眠ったユウラの頬をゼウスは愛しげに撫でる。

「ユウラ様、どうかなされましたか」
「えっ・」
「少し不機嫌そうなお顔をなされてますよ」
「そうでしょうか」

ユウラは自分の頬を触った。結局昨夜は満足のいかないまま意識を落としてしまった。
そのせいで不機嫌なのだが、シンに察されてしまった。

「少し出かけてきます。冷たい風にあたれば、落ち着くでしょうから」
「はい。お気をつけて」

神殿から出たユウラは息を大きく吸い込んだ。
冷たい風が胸の中へと入っていく。

「ユウラ?」

ユダの声にユウラは振り向いた。少しだけきょとんとした表情でユダが立っていた。
シンに会いにいくのだろうか。

「元気がなさそうだな」
「大丈夫ですよ。ユダはシンに会いに来たのですか?」
「いいや。ユウラに会いに来た」

意外な答えである。ユウラは目を丸くしてユダを見た。

「私に?」
「あぁ。今、平気だろうか」
「えぇ。ちょうど散歩に出ていたところなので」

ユウラは微笑んでユダの誘いを受けた。ユダは命の泉を二人分、ユウラに渡した。
人界に降臨してからユダはユウラをとある丘へと連れて行った。

「風が気持ちいいですね」
「そうだろう?」
「はい。でも、ゼウス様にナイショで来てしまいましたね」

ユウラは悪戯ッ子のように片目をつぶってみせた。
ユダは小さく笑う。

「気持ちも落ち着きました、戻りましょうか」

ユダはユウラの手を取った。ユウラはきょととしてユダを見る。

「もうしばらく、一緒にいてはだめか?」
「かまいませんが・・・・」

ユダはユウラを引き寄せると抱き締めた。ユウラは目を大きく見開いてユダを見る。
ユダはゆっくりとユウラに口付けを落とした。

「ん、ふぁ・・ユダ・・・・・・・・?」
「愛している、ユウラ」
「・・・・・・あなたが好きなのはシンでしょう?」
「違う。俺はユウラを愛している」
「違う」
「ちがくない」
「違います、ユダ」

ユウラはユダの腕から逃れようとするが、ユダはそれを許さない。

「ユダっ!」

ユウラは半ば悲鳴のような声を出す。ユダのユウラを抱き締める力は少しも緩まなかった。
ユウラの体から力が抜けていく。ユダは口元を歪めると力の抜けたユウラの体を横抱きにした。

「馬鹿だな、ユウラ。私がお前以外の天使を愛するわけがないだろう」

そう言った声は普段のユダのものではなかった。
そばの木に隠れていたラキが姿を見せる。

「ものすごぉく、不穏なやつだな、ルシファー」
「ふっ、お前はいいのか。ゼウスなどに抱かれているユウラを見るのが」
「ユウラが望んでるんだ。俺は何も言わない」
「なら何故口を挟む」
「・・・・・・・・一応俺たちの使い魔が文句を言うから」
「天使が使い魔?」

ルシファーはいぶかしげにたずね返した。
ラキがうなずいた。

「闇を操るスウ、光を操るシア、水を操るサラ、火を操るルナ、風を操るカル、地を操るソラ。楽しかったぜ、俺たち二人で使い魔を作るの」
「作ったのか」
「うん」

ラキは楽しそうである。ユウラも作ったのか、とユダもといルシファーは彼の顔をのぞきこんだ。
ルシファーの腕の中でぐったりとしている天使は華奢に見えてかなりの力を持っているのだ。

「愛しい天使だ。あんな天界と人間たちのために身を削っている。私の気持ちは無視だが・・・・・」
「というか、完全にな」
「ユウラはゼウスが気になっているのか」
「なってるというか、あれの場合は一度情をかけたものをほうっておけないんだよ」
「・・・・・・・・・それもそうか」

ルシファーは愛しげにユウラの頬を撫でた。
ラキは小さな溜息をつく。

「好きにしろ。でもあとでユウラに無茶苦茶怒られることは覚悟して置けよ?」
「あぁ」

ルシファーはそう言ってユウラを抱えたまま地獄へと舞い戻る。
ラキはさらに溜息をついた。その背後に複数の影が生まれる。

「あぁ、お前らか」
「ラキ様」
「放っておけ。あれはユウラを愛したせいで目が曇っているだけだ」
「ですが」
「悪いな、セキ。あいつは馬鹿だから。ユウラもたらしの才能抜群。俺もう感激だよ」
「ラキ、それは何か違わないか?」
「大丈夫だ。さぁて、俺は天界に戻るかな。ルナ、ソラ、ユウラが戻ってきたらへとへとになっているだろうから、天界まで連れ戻ってきてくれ」
「はぁいvv」
「わかった」

二人の使い魔が姿を消す。ラキは溜息を再度ついて翼を広げた。

「俺たちの知らない場所で物事は動いている。二度と壊すことは許されない」

ラキはつぶやいて天界へとむかったのであった。