第二話
ラキは地獄の定位置に座ってゆったりとしていた。
ユウラとルシファーのことだから、もうしばらくは天界に戻れないだろう。
ふと起き上がって地獄にある大きな穴のそばによって行く。
ユダとルカが封印されていた場所だ。ゼウスのかけた封印を破って、ユウラの想いが二人を天界まで呼び戻した。
一番呼び戻したい天使は戻れなかったが。
「報われないな」
ラキはそう呟いた。本当は報われないのは自分のほうなのかもしれない。
自分はもともと地獄にいるために生まれた存在。闇の住人が光の天使に惹かれるのは当然のことなのだが、罪の意識というものを感じてしまう。
いや、もう、感じることなどないのかもしれない。
「ユリ・・・・」
自分は幸せと愛を知ってしまった。優しく微笑む一人の天使にラキは心を奪われてしまったのだ。
ユウラもラキも自分が求めてしまうことを恐れている。
普段は何者も恐れない彼らが唯一つだけ、怖いと思えること。それが、"喪失"なのだ。
ユウラにとってはものすごく大きいことだ。そして、自分にとっても。
今まで地獄にいたときは、喪うものなど何一つなかった。下から地獄には何もないのだ。
失うはずもなかった。
だが、ユウラから天界の話を聞いて、ルシファーたちが堕ちてきて、ルカとユダが封印されてきて。
そして、ユウラと天界がめちゃくちゃになって。
・・・・ユリと出会って。
「俺も結局は心があるのか・・・・」
ラキは自嘲気味に笑った。ふと、背後からの話し声に振り向く。ルシファーとともにいた二人の堕天使がやってくるのが見えた。
ラキはなんとなく闇の中へ身を隠した。二人はラキがいることなど気にもかけず、そばへやってきて足を止めた。
「あの天使、かなり頭にくる」
「だが、それをルシファー様に言ったらどうなるか」
「ハク、私達は天界へ行けるじゃないか。別に翼を落とされたわけじゃない」
「そうだけど」
「それを利用すればいいのさ。天界に行って秘密裏にあの天使を殺すのさ」
「・・・・そうか、それはいい!」
二人の堕天使は笑声をあげる。ラキは闇に姿を溶かしたまま、移動し、ルシファーとユウラが睦みあっているであろう場所にむかう。
「ルシファー様・・・・・・・・っ」
ユウラは足をあがっていくルシファーの冷たい手に体を震わせた。
ゆっくりとルシファーの舌先がユウラの胸に落ちる。
「ユウラッ、ルシファーッ!」
「ら、ラキ?!」
ユウラとルシファーはいきなり姿を見せたラキにぎょっとした。ラキはそんな二人のことなど気にもせず、叫んだ。
「ルシファー!あのおつきのやつらをどうにかしろ!」
「お付き・・・?」
「ハクとシキとかいう堕天使共だ」
「放っておけ。単なるひがみだ」
「ひがみがひがみで終らなさそうだから言っているんだろう」
「どういうことだ?」
ルシファーはいぶかしげに問い返した。ラキはパカッと口を開くが言葉が出てこない。
言葉を出さずに、大きな溜息をついたラキにユウラとルシファーは不思議そうな視線を交し合う。
「お前ら、すごい気が抜けるからなんか着てくれないか?」
「お前がいなくなれば、続きをやるんだ。気にせずともいいだろう」
「・・・・・・・」
ラキは溜息をついた。そしてルシファーを見る。
「あの二人、ユウラを殺そうとか考えてるぞ」
「私を?何故」
「あのな、ユウラ、ルシファーを敬愛するあの二人だ。当然お前のことが邪魔になるはずだろう?」
「邪魔?」
「どこまで鈍いんだ・・・・」
ラキは溜息をついた。ルシファーが何も言えないようである。
「だが、あいつらはやったことを本気でやるからな」
「危ないだろ?」
「あぁ」
「あの、ルシファー様、ラキ?」
「危険だな。なんとかしなければいけないか」
「だろ?」
ルシファーの瞳がユウラをむく。ユウラはなんともいえないような顔をして、彼をむいた。
「私はユウラを傷つけるようなことはしたくない」
「ルシファー様」
「わかった。しばらく動きを封じておこう」
「そうか。じゃぁ、もう好きにしてくれ。俺はしばらく寝てるから」
「邪魔になるな」
「わかってるよ」
ラキはまた暗闇に姿を消す。
不安げに顔を曇らせていたユウラは、ルシファーの愛撫が始まるとハクとシキのことを頭の中から消したのであった。