第二十話
「ユウラ様っ!」
「ただいま、レイ、シン」
神殿に戻ってきたユウラにレイとシンは涙と笑顔を見せた。長の療養からユウラは戻ってきたのだ。
レイとシンは嬉しそうにユウラに駆け寄った。
「ラキから聞きましたよ。部屋を、掃除しておいてくれたんですね」
「よかった、元気になってくださって」
「えぇ」
「ユウラ様、お体の調子は」
「大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」
ユウラは微笑んだ。レイとシンはほっとする。
ユウラ帰還の報告を受けたのか、パンドラやカサンドラもやってきた。
ラキとユリもやってくる。ラキとユウラは目を合わせると笑顔を見せた。
「ユウラ様、体調のほうはいかがですか?」
「中々のものですよ」
「ユウラーっ!」
遠くからゴウやガイたちがかけてくる。ユダとルカもゆっくりと歩いてくる。
ユウラは笑みを深めた。
何かが吹っ切れたような気がする。誰も覚えていない。でも、自分が覚えている。
今までのことすべて。大切なことすべて。皆の笑顔を覚えている。今はもうないけれど、新しい笑顔を見ることができる。
「ラキ、私、これでよかったんだと今では思えます」
神殿から遠く離れた泉でユウラとラキは話していた。
「失ってしまったものは大きいけれど、でもこれから生み出していけると思うんです。失ってしまったものより大きなものを」
「あぁそうだな。お前は一人じゃないってわかってるだろ?」
「えぇ。もう、一人ではありませんから」
ユウラは微笑んだ。ラキはその笑みを見てほっとする。
もうラキの作り出した道は使えない。ユウラ自身が地獄に下りなければ、ルシファーには会えない。
神官となったユウラに地獄へ行く方法はない。でもユウラもルシファーも知っている。
互いに刻まれた愛の証を。
「さっ、ラキ戻りましょう。皆とのお茶会に遅れてしまいますから」
「あぁそうだな」
二人は立ち上がった。ユウラの腕に巻かれた黒い紐が揺れた。
ラキは少しだけ短くなった銀の髪に目を細めた。短くなった分はルシファーの腕に巻かれている。
二人の熱さに辟易したのは、ラキである。二人の愛の深さに溜息をついてしまう。
が、それもいいのかもしれない。
「あーあ、俺もお前たちを見習わないといけないのかなぁ?」
「はい?なんのことでしょう」
「だからぁ、俺とユリもお前とルシファーみたいにならないといけないんじゃないのかなって思って」
「勝手になっていてください」
ユウラはさらりと言った。ラキは溜息をついてしまった。ユウラは苦笑すると歩き出す。ラキはそのあとを追った。
泉のむこうでゴウやガイ、ユダとルカ、レイとシンが手を振っていた。二人は笑顔で手を振り返す。
明るい日差しが彼らを照らし出していた。
―第二部 END―