第十七話

ユウラは絶望に包まれた顔をしていた。ユダとルカは何があったのかと不安になる。
ユウラは泣きそうな瞳であった。

「ユウラ、皆が心配している。戻ろう」
「いいえ・・・・」
「何故だ。何かあるのか」
「もう、あそこにはいたくないんです。だから、放っておいてください」
「レイとシンがひどく心配していた。戻ってやらないのか」

ユウラは首を振った。戻りたくないらしい。

「なんで、そんなに戻りたくないんだ?」
「もう、いたくないんです。私とあの人をつないでくれる印がなくなってしまったから」
「印?」
「ユウラッ!」

ラキが血相を変えてやってくる。ユウラは逃げようとするが、ユダとルカに阻まれてしまう。

「ユウラ、胸見せろっっ」
「いや、やめてっ!!」

ラキはユウラの胸元に手をかけるといっきに引き裂いた。
白い胸が見える。傷一つない、白い肌だ。ラキの目が胸からゆっくりとユウラの顔に映った。

「お前・・・・・これでか、このせいで姿を消したのか」
「・・・・・・・はい」
「ゼウスにやられたのか」

ユウラはうなずく。

「ちっ・・・・・・ユウラ、しばらくあそこにいろ。皆には俺が上手く説明する」
「ラキ・・・これからどうしたら」
「大丈夫。あいつならお前を見つけられる」
「本当に?」
「あぁ」

今のユウラは幼子のようである。ラキはそっとユウラの背をさすり、慰めた。やがてユウラも気持ちが落ち着いてきたのか、深呼吸を繰り返した。

「大丈夫か」
「はい」
「一人でも、行けそうか」
「はい」

ユウラはルウをつれて洞窟へと歩いて行った。ラキはそれを見送ってからユダとルカに向き直る。

「悪いけど、ユウラを見つけたことは誰にも言わないでもらいたい」
「何故だ?」
「これは俺たちの問題であって、今のお前たちには関係ないからだ」
「ラキッ!」
「お前たちが、いや俺も関わっちゃいけないんだ」

ラキも辛そうである。ユダとルカはもう何も言わずうなずいた。
ラキは小さく礼の言葉を述べると、森から去って行った。

「ユウラ様が?」
「あまりに憔悴しているから、休ませるそうだ。ゼウスもひどいことをする」
「大丈夫なのですか」
「あぁ。お前たち二人にすまないと謝っていた」
「そんな・・・・・」
「ユウラ様のほうが苦しいでしょうに」

ラキがゼウスになんと説明したのか、ユダとルカは知らなかった。だが、ラキが説明したからなのか、ユウラ失踪は幕を閉じた。
が、ユダとルカはどうしても腑に落ちなかった。森で聞いた二人の会話である。
ユウラが姿を消したわけ、それは胸にあるというのだろうか。二人はどうしても気になってラキのいる女神の神殿へと足を運んだ。

「おっ、ユダにルカ。どうした?」

ラキは親衛隊の面々に囲まれていた。どうやら鍛練をしていたらしい。
二人が歩んでくるのに気がつくと彼らに何事かを話して近寄ってきた。

「この前のユウラのことだ」
「あぁそれか。ユウラのことなら心配はいらない。少しショックで気落ちしてるだけだから」
「俺たちにはそうは思えないんだが?」
「俺たちにユウラの想いはわからないだろう?あんまり関与しないほうがいいと思うぜ」
「ラキ・・・・・・」
「まぁ真実を知りたいっていうのなら、今夜東の湖で待ってるから。じゃっ」

ラキは親衛隊のもとへ戻って行く。まだユリは回復していないようだ。
ユダとルカは顔を見合わせうなずいた。行くに決まっている。
もっとユウラのことを知っておかなければ、あとあと彼の助けになることはできないだろうからだ。

「ユウラもラキも仲間だからな」


"仲間と思ってくれますか"


ユダとルカの口元に笑みが浮かんだ。そして二人同時に呟く。

「「当たり前だろう」」

そして二人で顔を見合わせて笑ったのであった。