第十六話

「ユウラが消えただと?!」
「あぁ、今レイやシンから使いがあった。どこにもいないらしい」
「何があったんだ・・・・・」
「ラキ・・・」
「ユリ、悪い。俺、探しに行かないと」
「わかってる。女神様に親衛隊を動かす許可はいただいてある。ユウラ様を探すぞ」
「悪い・・・・」
「ほら、暗い顔をしてないでさっさと行くぞ」

ユウラ失踪のニュースは瞬く間に天界中を駆け抜けた。ラキは親衛隊から一時離れ、女神の懐という名の洞窟へと向かう。

「ユウラが来てないか?!」
≪いいや、お前たちが戻って行ってからは一度も戻ってきてないが?≫
「なら、どこにいるかわからないか。ユウラは消えたらしいんだ」
≪私でもわからない。ユウラは完全に気配を消している。この私にも見つからぬように≫

ラキは軽く舌打ちした。ユウラがレイやシンに何も言わず姿を消すことは考えられにくい。さらわれたとしてもすぐにわかる。
第一、気配を完全に消しているというのなら、ユウラは自発的に姿を消したことになってしまう。

「くそっ、何があったっていうんだ」
≪ラキ、ユウラが消えたというのなら堕天使に関することではないのか≫
「ルシファーに?まさか、そんなことはない。ルシファーも意外と定期的にこっちへ来てるみたいだ。俺が作り出した道を使って」
≪それ以外にあれが姿を消す理由が見つからない≫
「あぁ・・・・・・・ともかく俺は探してみる。見つかったら教えてくれ」
≪やれやれ・・・・≫

ラキが姿を消すと同時に女神が一人姿を見せた。彼女は軽い溜息をついた。

「ユウラめ、いったいどこに消えた」

「ラキっ」
「悪いな、ユリ」
「いや、それでどうだった」
「いない。やっぱりゼウスと何かあったか」
「ゼウス様と?」

ラキは舌打ちする。ともかくユウラが消えたということが天界になにかよからぬことを持ち込みそうである。

「ユウラ様・・・・・・」
「レイ、動くな」
「シンもだ。無理をすればまた倒れるぞ」
「でも、ユウラ様は」
「俺たちで見つけ出す。だから無理をするな」
「はい」

一番初めにユウラがいないことに気がついたのはその側仕えであるレイとシンだった。夜はゼウスの夜伽があるため、部屋に戻ってくることはない。
朝、朝食を持っていくために扉を叩いても中から返事はなかったのだ。
扉を開けてみれば部屋はもぬけの殻。神殿内のどこを探してもユウラの姿はなかったのだ。

「兄さん、ユウラ大丈夫かな・・・・」
「なんとも言えんな。どこに行ったのかわからなければ」

天界中の者達がユウラの姿を探していた。しかし、ユウラの姿は蒸発してしまったかのように見つかることはなかったのである。

「くそっ!!」
「ラキ・・・・」
「なんで、みつからねぇんだよ」

ラキはぎりりっと歯を噛み締めた。
ユダとルカは南の森にいた。比較的温暖な森である。

「ここにもユウラはいなさそうだな」

二人が森から立ち去ろうとしたときである。かん高い、悲鳴のような叫びが耳に届いた。
二人は顔を見合わせ、その叫びの聞こえた方向へ走り出す。
やがて開けた場所に出た。

「ユダ、ルカ!」
「ルウ?!」

ユウラの肩のものルウが二人を見て驚いたような顔をしている。
そばの大樹の根元にユウラがうずくまっていた。ユウラの体は白い翼が覆い隠し、まるで卵に入っているかのようである。

「ユウラッ」

名を呼ぶ声が聞こえたのか、ユウラはのろのろと顔をあげる。
目が赤い。泣いていたのだろうか。

「ユダ、ルカ・・・・」

ユウラの声は絶望に覆われたような声をしていた。