第十五話
「ユウラ」
「おや、ラキ。私のもとにはもう来ないでくださいと言ってありませんでしたか」
「薄情だなぁ・・・・」
ラキは椅子に座った。ユウラは渋い顔をしてラキを見る。
「シヴァのこと、話に来たのに」
「どうですか」
「今は少し落ち着いたみたいだ。お前に悪いことをしたって、謝ってた」
「私のほうが悪いことをしてしまったのに」
「いいじゃないのか。お前もシヴァの気持ちを考えてるんだし」
ラキはそう言って小さく笑みを浮かべた。ユウラもそれにつられて微笑む。
「親衛隊とユリもゆっくりだけど回復してる。女神が結構心配してた」
「当たり前でしょう。神官たちも回復しています。ゴウに話を聞くところによれば、マヤとガイはもう元気だそうですよ」
「レイとシンは」
「私の部屋で療養させています。あそこが一番落ち着きますから」
「だな」
ラキは立ち上がる。ユウラは少しだけ不安そうな顔をした。
「ユリがいない間は俺が親衛隊を見ないとな。じゃぁ、俺は戻る」
ラキはそう言って女神の神殿に戻って行った。それと入れ違いになるようにしてキラがやってくる。
「こんにちは、キラ。マヤの様子はどうですか」
「あぁ。もうすっかりとよくなっている。これもユウラの薬のおかげかな?」
「よかった」
ユウラは嬉しそうに微笑んだ。と、ユダとルカもやってくる。
「レイとシンなら私の部屋の奥で休ませています。どうぞ」
「ありがとう」
ユダとルカがユウラの部屋へ入っていくのをキラは見送る。
「記憶を失くしていても心はなくならないんだな」
「えぇ、そのようですね」
「ユウラは、記憶を失くしたいと思ったことはないのか」
「何度もありますよ。ルシファー様が堕天されたとき、ユダとルカがゼウス様に挑んだとき、四聖獣が反逆ののろしをあげたとき・・・・・いつのときも私は無力でした。そんな自分から逃げたくて、記憶を失くすことを願いました」
でも、とユウラは悲しげな笑みを浮かべた。
「所詮それはただの願いにすぎないのです。破滅の日のことも、今の世界は私が望んだもの。たとえこの先がどうなっていこうとも、私はもう止めることをしないでしょう」
「ユウラ・・・」
「大丈夫ですよ、キラ。もう、無茶はしませんから」
「本当だろうな」
「はい。私が嘘をつくような天使に見えますか」
「かなり嘘をつかれた覚えがあるんだが」
ユウラはクスクスと笑った。キラもそれにつられるようにして笑う。
「キラ、また遊びに行ってもいいですか」
「あぁかまわない。そのほうがマヤも喜ぶ」
「では、そのときには美味しいお茶菓子でも用意していきましょう」
ユウラの言葉にキラはうなずいた。そしてユウラを招きよせる。
ユウラは首をかしげてキラに近づいて行った。キラの指がユウラの耳につけられた飾りに触れた。
「つけていてくれたんだな」
「キラがくれたものですから。それにお気に入りなんですよ。すごく綺麗でなんだかもったいない気もします」
「似合っている」
「ありがとうございます。面と向かって言われるといささか照れますね」
キラは照れたように笑うユウラを見て小さな笑みを浮かべた。
「ユウラ」
「あぁ、ユダ、ルカ。もういいのですか」
「あぁ。あまり長居をして二人を疲れさせても悪いからな。また明日来ると約束したから」
「では俺も帰ろう」
「はい。三人とも気をつけて」
「ユウラ」
キラはユウラの耳元に唇を寄せた。
「また明日な」
「っ、はい」
ユウラは顔を真っ赤にしてうなずいた。ユダとルカが不思議そうに見てくるがキラはただ小さな笑みを浮かべているだけであった。
三人が帰ったあと、ユウラはレイとシンのもとへむかった。
「ユウラ様」
「二人とも、具合はどうですか」
「ユウラ様のおかげでよくなってきました」
「それはよかった。さぁ、今日の分です」
ユウラが調合した薬で彼らを含めた者達は確実に回復していた。
ユウラは二人が薬を飲み終え、眠ってしまうのを見届けるとゼウスのもとへ足を運んだのであった。