第十四話

「ユウラ、親衛隊のほとんどが消えてる!」
「やっぱり見つからなかった」
「ガイも消えてるぞ」

ユウラは報告に眉を寄せた。実は神官たちも幾人かが消えているのだ。
先ほどパンドラとカサンドラに消えたものがいないかどうかたずねたらそう答えが返ってきた。

「誰かに攫われでもしたのでしょうか。でもそんなこと・・・・ユダとルカがともにいるのにありえるわけがないですね」

ユウラは顎に手を当てて思案する。攫われた者達に共通点があれば、わかりやすいのだが。
ふと何かを思いついたのか、ラキが手を挙げる。

「ユリのいなくなった場所をもう一度見てみたんだ。そうしたら、少しだけ負の塊の気配を感じた」
「俺たちもだ」

ユダとルカ、ゴウとキラが同じようにうなずいた。ユウラの目が細められる。
犯人はめぼしがついた。恐らくたまりに溜まっていた負の塊が動き出したのだろう。
ゼウスに、復讐するため。

「彼らを急いで探し出さなければなりませんね」
「あぁ。でもどうやって」
「緊急事態です。ラキ、やるべきことはわかっているでしょう」
「あぁ、すぐに行って来る」

ラキはユウラの部屋から飛び出して行った。

「私たちは私たちで負の塊を探し出しましょう」

ユウラは翼を広げ、森へと飛んでいく。
一番嫌な気が充満しているのは西の森である。下を走るユダたちに目をむけ、西の森を指し示した。
彼らはうなずいて、走るスピードを速める。

「無事でいてください」

切なる願いであった。が、ユウラはいなくなった者達の身を案じるがあまり、自分の注意がおろそかになっていた。
下からの声に目線を下げた瞬間に、体を何かにつかまれ地へ叩き落されたのだ。
大きな衝撃に息がつまる。

「ぁっ・・」
「・・サナイ」

小さな声に目を開ければ、目の前に誰かの泣いた顔が見えた。

「・・・サナイ・・・・・タイヨ」
「だ・・・・れ?」
「ユウサナイ・・・・コンナニイタイノニ・・・・ナンデアイツハ」

ユウラの目の前で銀の光が一閃し、悲鳴があがった。誰かの腕に支え起こされる。

「てめぇ、ユウラになにしやがる!!」
「ラキ・・・待って」
「ユウラ?」
「誰・・・なんで、泣いてるのです」

ユウラのほうへ、視線が注がれた。ふとユウラの脳裏に一人の天使の姿が浮かび上がった。破滅の日以来姿を見かけていない、天使。

「嘘・・・・」

一瞬にしてユウラを襲ったものは姿を消した。しゃがみこんでしまったユウラのそばへラキが駆け寄ってくる。

「大丈夫か、ユウラ?!」
「ラキ、どうしよう・・・・」
「ユウラ?」
「シヴァ、なんです」
「えっ」
「シヴァが負の塊に飲み込まれて、あんな姿に・・・・」

ユウラの瞳から涙が溢れた。

「行かなくちゃ」

ユウラたちは再度西の森へむかった。ここにも確か泉があったはずである。シヴァがいるとすればそこだ。
ユウラがそう考えたとおり、シヴァがそこにいた。攫われたと思われるシンやレイ、ユリにマヤにガイ、神官、親衛隊の面々もいる。
飛び出そうとするユダたちをラキが抑えた。

「何故とめる!」
「ユウラに任せろ。今のお前たちがあいつと立ち向かえるはずがない」
「ラキ、シヴァも・・」
「記憶は残っているはずだ。あのとき、俺のそばにいたんだから」

ラキはキラの言葉に苦々しく答えた。
ユウラはシヴァのもとに近寄っていく。触手が伸ばされ、ユウラの肌を切り裂いていった。
頬を切り裂かれ、目に血が入る。

「シヴァ、ごめんなさい。あなたの苦しみに私は気がつけなかった。今からでは遅いのでしょうか。もう一度、戻ってきてください」
「ユルサナイ。コノイタミ、アジアワセテヤル」
「ユウラッ!!」
「っ!」

ユウラの体が触手に縛られる。

「ぁっ・・・・」
「ユルサナイ・・・・・ユルサナイ」
「あっあぁ・・・・・・・・!」
「あれでも助けに行かないのか!」
「っ・・・・・・・忘れているやつに言われたきゃねぇよ!!」
「ラキッ!!落ち着け」

ユウラの体は締め付けられていく。ラキは歯噛みしてそれを見た。

「シヴァ・・・あなたの想い、痛み、私がすべて受けます・・・だから、戻って」

ユウラの体から触手が消えると同時に、ユウラは地に落ちた。
そのそばに一人の天使が倒れている。ラキがユウラを助けおこし、キラが彼を助け起こした。

「ラキ・・・シヴァは?」
「気絶はしているが、無事みたいだ」
「そう・・・・よかった」

ユウラは安心したように微笑むとそのまま意識を飛ばした。
そののち、シヴァがどうなったのか、聞くことになる。