第八話

「遅れてしまいました。怒っているでしょうか・・・・・・・・・・・・」

ユウラは不安そうにつぶやいて、翼を羽ばたかせるスピードを速めた。
すぐに湖とそのほとりに立つ仲間たちに気がついて笑みを見せた。

「ユウラ、遅いぞ」
「すみません」
「ユウラ様、ラキを見ませんでしたか?」

不安そうな様子でユリがたずねてくる。ユウラは首を振った。
ユリはそうですか、とつぶやくと不安そうに空を仰ぎ見た。
ほとりに集まったのはゴウ、ガイ、レイ、シン、ユダ、ルカ、ユリ、ユウラである。ラキも来るはずなのだが、遅れているようだ。

「すみません、ユリ。引っ張ってくればよかったですね」
「いえ、そんな」

ユウラが呆れたような溜息をついたときである。ラキの声に一同は振り向いた。
そこに息を切らしたラキがいる。ユウラの気配が冷たくなったのに気がついた天使たちはユウラからキョリをおく。
ラキはユウラを見て苦笑いする。

「悪いな、ユウラ」
「悪い?悪いと想っているのなら、もっと速く来たらどうですか」
「ユウラ、怖い〜」
「とは言っても私は人のことを言える立場ではありませんからね」
「えっ、ユウラも遅れた?仲間じゃん」

放っておくとそのまま喧嘩に突入してしまいそうなため、ゴウとユダがあいだに入って二人を抑える。

「今日は下界に下りるのだろう?速く行かないと日が暮れるぞ」
「あぁそうですね。行きましょう」

命の泉の水を体にふりかけ、彼らは地上へと降臨した。地上へ降りると同時に、人の姿になった彼らは天使だとはわからない。

「セラは元気でしょうか」
「最後に会ったときは元気だったぜ?」
「そうですか。しばらく会えなかったので心配だったのですよ」

大人数で迷惑ではあろうが、セラの家に行くのだ。セラの性格からして、喜びはするが、別に迷惑とは考えないだろうな、とラキは思っている。
ユウラは久々の下界に嬉しそうな顔をしていた。

「ぁ、ユウラさん!」
「こんにちは、セラ。お久し振りですね」

ちょうど家の前にセラが立っていた。セラは嬉しそうな顔をしながらユウラたちのもとに駆け寄ってくる。

「しばらく姿を見なかったので、心配してました。でも、元気そうでよかったです」
「すみません。でも、ラキが来ていませんでしたか?」
「着てくれました。あと、天使様たちも・・・あっ!」

セラの顔がユウラの背後にむいた。ゴウやルカがセラにむかって手を振った。

「ゴウやルカには会っているのですね。その後ろの彼らは、まだ会ったことがないでしょう?レイとシン、といいます。仲良くしてくださいね」
「はい!はじめまして、レイさん、シンさん。セラフィールドといいます。どうかセラって気軽に呼んでくださいね」

そのごはお茶会となった。セラがお茶を淹れている間、ユウラたちはとある事柄についての話をしていた。

「にしてもユウラまでがセラと顔見知りだなんて初耳だな」
「実は、一度だけこちらに降りてきたとき妖魔を見つけたんです」
「俺も一緒だった。で、妖魔に襲われていたのが、あいつ」
「それ以来仲良くなりましてね、時折こちらに遊びに来ていたんです」

ユウラはいそいそとお茶を淹れるセラの後姿を見ていた。

「このところ下界に妖魔が増え始めているのです。そしてセラが襲われていたのはおそらく彼女の力を狙っていたのでしょう」
「俺たちの存在を知ることができる・・・・・?」
「はい。セラの力は大変稀有なものです。それゆえに狙われやすいかと」

ユウラはそう言ってコクンとお茶を飲んだ。ほっとしたような笑顔になる。

「それで、提案なのですが、交替で彼女を守りに着ませんか」
「ユウラが言うと提案というよりも既に確定事項のことのように思えるが」

ユダの言葉にガイやゴウがうなずいた。

「無論レイとシンと私は普段神官の務めがあるので、それ以外となりますが」
「・・・・・やれ、ということですか、ユウラさん」
「当たり前でしょう、ラキ。何を今更」

ユウラの笑顔に何も反論できなくなった天使たちがいる。ラキは自分と仲間たちを心底哀れに思った。

「セラはもう大切な友人です。それに、幸せになってもらいたいでしょう?」
「それには同感だな」

ゴウがうなずいた。隣でガイもうなずいている。
ユウラは二人を見比べて、小さく微笑んだ。

「ふふっ、では、ガイとゴウ、お願いしますね」
「俺たちがか」
「はい。もちろん当番は交代です」
「・・・・・・・わかった」
「セラッ」
「ユウラさん?」
「皆で湖に行きませんか?」
「ちょうどよかった。ケーキ焼いたんです。だからこれもって行きましょう」

セラとユウラたち一行はセラの焼いたケーキを持って湖に出掛けたのであった。