第七話

「天使を粛清・・・・・・・・・」
「えぇ。邪魔者がいないほうがゼウス様もよろしいかと」

ミカエルとラファエルの言葉にゼウスは考える。

「して、その邪魔者というのは」
「それは・・・・・」

マヤがキラのもとにかけてきたのはその日の昼だった。
慌てた様子のマヤにキラは眉根を寄せた。

「どうした、マヤ」
「大変だよ、兄さん。ゴウさんとガイとユダさんにルカさんが粛清されるって!」
「なに?!破滅の日以来粛清はされていなかったのに!?」
「それがミカエルとラファエルがゼウス様に言ったらしくて」

キラは憎らしげにミカエルとラファエルの名を呟いた。
ゴウたち四人の天使の粛清の話はあっという間に広まった。神殿にいるレイやシンは不安そうに顔を見合わせる。

「ユダさんたちが粛清など・・・そんなことあるはずがないです」
「えぇ。でも、天使長であらせられるミカエル様とラファエル様の命令は絶対。覆すことができるのは、ユウラ様だけでしょう」
「ユウラ様・・・・」

「ゴウたちが粛清ですか」
「あんまり驚いてないみたいだな」
「十分に驚いていますよ。ですが、ミカエルとラファエルならやりそうなことだと想いました」
「お前が生み出した天使だろう」
「大本の性格は私と同じものです。ですが、それをいい方向へ育てるか、悪い方向へ育てるかはゼウス様しだいでしたから。恐らく甘やかしすぎなのでしょうね」

そう言ってユウラは立ち上がった。ラキはユウラを見る。

「行くのか」
「はい」

ラキも立ち上がって笑みを見せた。

「わかった、行こうぜ」
「そういうわけです。またしばらくお暇させていただきます」
≪しばらく静かになるな≫
「またそのようなことを・・・それでは、母上」

二人は暗闇にむかって頭をさげると、翼を広げゼウスの神殿にむかって飛んで行ったのであった。
粛清されるゴウたち四人は何も身に覚えがなかった。いきなり言われてもどう反応していいか困るものである。

そして、粛清当日。彼らはゼウスの神殿前に集まっていた。他の天使たちが不安そうな様子で彼らを見守っている。
ゼウスがミカエルとラファエルを伴って姿を見せた。

「これで、邪魔者はいなくなる」

ゼウスの手が掲げられた。そのときである。

「少しおいたがすぎますよ、ミカエル、ラファエル」

澄んでいるが、厳しい声音に誰もが宙を見た。そこにユウラとラキが翼を広げて飛んでいた。
ミカエルとラファエルの瞳が驚きに見開かれる。

「ユウラっ!」
「私は仲間達を殺していいとは一言も言った覚えがありません。なに勝手に記憶を改ざんしているのですか」

ラキは地に降り立つとゴウやユダを見た。

「まさに危機一髪ってところだったな。ユウラがかなりのスピードで飛んでいたから間に合ったようなものの、後少しでも遅かったら焼け焦げて死んでるな」
「ラキ、不穏なことを言っていないでさっさと片付けますよ。この失態、私とあなたのせいなのですから」
「はいはい」

ラキはまた飛び始める。ミカエルとラファエルは少しだけ悔しそうに二人を見ていた。

「あなたたちを作り出したのはどうやら失敗のようですからね。私の中に戻ってもらいます」
「そんなこと・・・・・・させるかっ!」

ラファエルとミカエルはユウラとラキにむかってくる。二人は溜息をつくとそれぞれの武器を取り出した。
ラキは淡く輝く黒い剣、ユウラは銀の光を放つ三椏の矛。およそ二人には似合わないものである。特にユウラには。

「私たちは今怒っていますから。手加減はしませんよ」
「あぁ」

ユウラとラキの武器がうなりをあげた。ミカエルとラファエルの翼が落ち、二人の体が光の筋となってユウラの体に吸い込まれていった。
ユウラとラキは武器をしまう。ユウラは軽く己の体に触れた。

「力も戻りましたね。ラキ、私の瞳は」
「銀色。完全みたいだな」

ユウラは微笑んで、ゼウスのそばに降り立った。
そっとゼウスの足元に跪く。

「突然姿を消したことお詫び申し上げます。そして、私の分身でもある二人の天使がなしたこと、どうかお許しください」
「ユウラ・・・・・・」
「はい」
「戻ってきたのだな」
「ここが、私のいる場所ですから」

ラキはユリのそばに降り立った。ユリは泣きそうな顔でラキを見ている。
ラキは苦笑をもらすと、ユリの体を抱き締めた。

「ただいま、ユリ」
「この、ばかっ」
ユリの言葉にラキは苦笑を漏らした。だが、すぐに頬へと唇を落とす。

「もう二度とどこにもいかかねぇから、安心しとけ」
「ばかっ、誰が・・・・・」
「正直じゃなねぇなぁ」
「お前の前で正直にやってられるか」

ユウラはユリとラキのやり取りを見ながら微笑んでいた。下を見れば、ゴウやルカたちが手を振っている。
ユウラは小さく手を振って微笑んだのであった。