第六話

ラキは友人たちに見下ろされ、困ったような顔をしていた。
というか、にらまれていた。

「ニィハオ・・・・・・・・?」
「どこの挨拶だ、どこの?」

ゴウの声が冷え冷えとしている。ラキはぞくりとして背筋を振るわせた。

「ラキ、ユウラはどこだ?」
「どこだろうな」
「・・・・・・・」

ユダとルカの視線が無茶苦茶怖い。視線だけで殺されてしまいそうだ。
ごめんなさい、と衝動的に謝ってしまいそうで怖いのだが。
そして普通にユウラの居場所を話してしまいそうだ。

「えっとぉ・・・・・・・・」
「何をしている」

彼らの背後からそんな声が聞こえてきた。振り返れば、天使長ラファエルとミカエルがいる。
ラキはこのときはじめて、神の助けというものを信じた。ユダとルカが彼ら二人のことをものすごい目でにらんだのはとりあえず見なかったことにしておく。

「ラキ、か」
「久し振り、お二人さん。元気にやっているみたいだな」
「相変わらず呑気なものだな。それで、何をして捕まった」
「別に。そろそろ俺はユウラのところに戻ろうとしていただけだから」

ラキはそう言うと立ち上がった。

「ユウラは」
「生きてるよ。こっちに戻りたがってる。お前たちもあまりおいたはするなよ。あとでユウラに叱られる」

ラキはそう言うと翼を広げて飛び立っていってしまった。
ラファエルとミカエルは軽く溜息をついてゴウたちを見た。

「ラキとユウラのことは気にしなくていい」
「だが、ユウラの側仕えだったシンやレイの元気はなくなるいっぽうだ」
「神官たちだってユウラがいないと気落ちしてるだろ」
「親衛隊だってラキがいなければどこか覇気がない」

ミカエルが口を開きかけたラファエルをおさえ、言った。

「ラキもユウラも戻ってくるだろう。本人達なら問題あるまい。それと、これからさき、ユウラたちに関与するな」
「なっ・・・・・」

ラファエルとミカエルは天使たちに反論する暇を与えず、その場から立ち去ってしまったのであった。
いっぽう主のいなくなった部屋にレイとシンはいた。

「ユウラ様がいなくなると、この部屋も広く感じますね」
「えぇ・・・・本当にユウラ様はどちらへ・・・・・・・・」
「戻って、来られるのでしょうか」
「戻ってこないはずありませんよ」

そんな声が聞こえた。振り向いた二人の瞳にパンドラとカサンドラが映る。
二人はユウラの部屋の前まで来ると足を止めた。

「ユウラ様はいつでも私たちのことを気にかけてくださってましたからね」
「それにあのラファエルやミカエルといった天使長たちは気に食いませんしね。ユウラ様がいなくなったと思ったらゼウス様に取り入ってますから」

それは誰しもが感じていたことである。あの二人の天使長は何を考えているのか、ゼウスに取り入っているのだ。
そのせいか、少しずつゼウスは変わってきていた。

「早く、戻ってきてもらいたいものです」

ガイアの懐である洞窟。ユウラはやっと戻ってきたラキを軽くにらんだ。

「なに怒ってるの」
「怒るのは当たり前でしょう。もう、心配したんですよ」

ラキは軽く頭をかいてユウラを見た。

「なぁユウラ。あいつら結構おいたがすぎるみたいだけど?」
「そうでしょうね。そろそろ戻らないと大変なことになります」
「だよな・・・・・・・・って戻るつもりなのか?!」
「私は彼らを生み出した親ですから。子の迷惑は親が片付けなくてどうします」

ラキは溜息をついた。ユウラの言い分ももっともである。
だが、彼は戻って何をするつもりなのだろう。また、今までのように過ごしていくのだろうか。

「しゃーねーな、わかった。そこまで言うのなら戻ってもかまわない。でも、絶対にむりだけはするな」
「はい」

ユウラの笑顔にラキはまた、溜息をついたのであった。