第五話
「ルカさん、ゴウさん!」
セラは戸口に立った二人の天使の姿に笑顔をみせた。ふと、その背後にも幾人かの姿があるのに気がつく。
「今日は友人たちもいるのだが、いいだろうか」
「はい。どうぞ」
ゴウとルカのほかに数人の天使たちがいるようだ。セラはお茶を淹れた。
「彼女はセラ、だ。セラ、彼は友人で、ガイとユダだ」
「はじめまして、セラフィールドともうします。さぁ、おかけになってくださいな。今お茶とお菓子を用意しますから」
四人はセラに示された席についた。セラは彼らの前にお茶とお菓子を用意した。
セラはふわりと微笑んで、彼らを見た。
「それで、今日はどうかしましたか?」
「いや、この前言っていた"ラキ"という名の人間のことを聞きたいんだ」
「ラキのことですか?多分、そろそろ来る頃だと思いますが」
セラは首をかしげて言った。立ち上がると窓から外を見て、笑顔になった。
「やっぱり。ラキ、そんなところにいないで入ってきたら?あなたに会いたいっていう天使様がいるのよ」
「天使?そんなんいるわけないじゃん」
「いるの。どうでもいいから、早く入ってきて!!」
「はいはい」
窓をしめるとセラは戸を開けた。セラの言ったとおり、黄金色の髪と翡翠色の瞳を持った青年が立っていた。
彼は不思議そうに天使たちを見る。
「普通の人間じゃん」
「天使様だよ。羽も見えるし」
「・・・・別にセラの力を疑っているわけじゃないし。で、誰」
「ゴウさん、ルカさん、ガイさん、ユダさん。あのね、ラキと同じ名前の天使様のことを探しているみたいなの」
「へぇ」
ラキという青年はセラの隣に腰掛けた。少しだけ挑戦的な瞳を天使たちにむける。
「ねぇ、天使様。あんたたち、なに?」
「天使様よ。当たり前じゃない」
「違う。何の用でここにきたんだ?そのへんが理解できない。第一ラキはお前たちのことが嫌いなんだぜ?会うわけないだろう」
「お前・・・・ラキを知っているのか!?」
天使たちは驚いて立ち上がった。ラキは不適に笑う。
セラはわけがわからず、彼らをおろおろと見ている。
「お前たち本当わかってないなぁ・・・・」
「なにがだ、お前は誰なんだ!!」
「一つだけ言っておくけど、セラ」
「うん?」
「オレはお前を巻き込むつもりはなかった。これは本当。信じてくれるよな」
「うん。ラキのこと、信じてもいいって思えるもん」
ラキは笑うとゆっくりと目を閉じた。その瞬間にラキの姿が変わる。
黒い服に髪に瞳。それは天使たちが良く知るラキの姿だった。
「ラキ!!!」
「久し振りだな。とは言っても、オレは遠くからお前たちのことを見ていたけど」
「ラキ、知り合いなの?」
「セラ、オレの背に何色の翼がいくつ見える?」
「二対、黒の翼・・・・」
「正解。あとでご褒美やるよ」
セラに笑顔をむけたラキの頭をゴウがはたく。ラキは涙目になってゴウをにらんだ。
「なにすんだよ」
「それはこっちの台詞だ!なんで、お前が下界にいる?!」
「いたっていいじゃん。別に死ぬわけじゃないし」
「そういう問題じゃないだろう・・・・・・・・」
ルカが溜息をついた。ラキは姿を元に戻す。
「お前たち、怒ってないの?」
「なにが」
「だからさぁ、嫌い、って言ったこと」
四つの溜息が重なった。ラキはそれを見て、ふとユリのことを思い出す。なんだか同じことを言われそうだ。
というかユウラはいったいどこまで見通しているんだ。そんな思いをまぜこぜにしてラキは溜息をついた。
「ラキ、ユウラはどうしている?」
「生きているよ。とりあえず(てか無視するな)」
「そうか・・・・戻ってくる気にはならないのか」
ラキはじとっと彼らをねめつけた。
「あのさぁ、俺が言った言葉、あんたたち覚えてるのか?」
「嫌い、という言葉か。どうせ、お前の本心じゃないだろう」
「あぁ。いえるわけがない」
「お前ら、どこからそんな根拠が」
「ユリのことを忘れられないあたりで」
綺麗にはもった。ラキは机に思いっきり額をぶつけた。
ゴンッという音がする。顔をあげたラキの額は赤くなっていた。
「理解できません・・・」
「しなくていいんだよ。ラキ、戻ってくるだろ?」
「えーっ、俺面倒」
「なら引っ張り出してやるが?」
「ユダ、こいつを天界まで引っ張っていくというのはどうだ?ラキは暴れるだろうからいい鍛練にもなるぞ」
「一石二鳥というやつか」
ラキはぞっとして彼らを見た。目にはマジメな光が宿っている。
溜息。
ラキの隣に座っていたセラが彼をつついた。
「家出してるの?」
「家出っていうか、土地出?」
「なんか違うよ」
ラキは溜息をついた。セラは不安そうな顔をしている。
「なぁ、ユダルカゴウガイ、そろそろもどらねぇ?」
「戻ったらじっくりと話すか?」
「考えておきマス」
「よし、強行でいこう。悪いな、セラ。ゆっくりとしていけなくて」
「いいえ、また来てください。待ってますから」
ゴウが脇にラキを抱え、彼らはうなずいた。ラキとセラの視線があう。
セラは小さな笑みを見せた。
「またね」
その小さな言葉にラキも笑みも浮かべたのであった。