第三話

セラはお茶とゴウとルカに出した。

「本当に助けてくださってありがとうございました」
「偶然だ」
「あっ・・・・・」

セラはゴウを見て小さく声をあげた。ゴウは不思議そうにセラを見る。

「どうかしたか?」

「いえ、あなたの笑顔がいつも来てくれる人に似ていたものですから」
「いつも来る人?」
「はい。ラキという名なのですが・・・・・・」
「ラキだって??!」

ゴウとルカは驚いたように立ち上がる。セラはきょとんとして彼らを見た。

「お知り合い、ですか?」
「知り合いもなにも、友人だ」
「どんなやつだ?」
「綺麗な翡翠色の瞳と黄金色の髪を持つ方ですよ。でも、羽は見えませんでした」
「ラキじゃない・・・・・・」

二人は力が抜けたように座り込む。セラは不安そうに二人を見た。

「俺たちの知っているラキは黒い髪とダークブラウンの瞳を持っている」
「そうですか・・・・すみません」
「いや、セラが謝ることじゃない」

ゴウとルカは立ち上がった。

「そろそろ俺たちは戻る」
「あの・・・・・」

セラの声に二人は振り向いた。悲しげな瞳のセラが立っている。
二人は小さく笑うと言った。

「また来る」
「待ってます」

セラは嬉しそうに微笑んだ。そしてゴウとルカが天界へ戻っていくのを見送った。
二人が完全に見えなくなってからセラはふと家の背後へと回った。そこに一人の青年が座っていた。

「ラキ、来たのなら入ればよかったのに」
「客がいたんだろう」
「今日、ユウラさんは?」
「疲れてるから置いて来た。俺だけじゃいやか?」
「ううん、そんなことないよ」

セラの視線の先にいる青年は嬉しそうに笑った。


「ラキ、か。今、どうしているんだろうな」

天界に戻ったゴウとルカはそんな話をしていた。思い出すのは懐かしい友人二人である。
美しい銀の大羽と瞳、髪を持ったユウラと黒髪とダークブラウンの瞳を持ったラキである。
ユウラはゼウスに仕えていた神官で、誰からも好かれるような天使だった。ラキは女神親衛隊の副隊長で、部下たちから慕われていた。
二人の周りには自然に天使たちが集まっていくのである。ルカやゴウもそうだった。
だが二人は少し前に行われた天使長の儀式のときに姿を消したのだ。それ以来彼らの姿を見たものはいない。

「ルカ、ゴウ」
「レイ」
「どうしたんですか。珍しい二人で神殿に来るなど」

レイはユウラの側に仕えていた神官だった。彼もまたユウラのことを慕っていた。ユウラがいなくなっても、まだ彼の部屋を掃除し、いつ帰ってきてもいいようにしている。

「下界で妖魔を倒してきたからその報告に来たんだ。レイは何をしているんだ」
「ユウラ様の部屋にお花でも飾っておこうと思って・・・・」

レイの腕の中には青い花が多くある。ルカはその花束を手に取った。

「持っていこう」
「ありがとうございます」
「じゃぁオレは報告をしてこよう」

ゴウとルカとレイは出会ったところで別れた。
かみ合っていなかった歯車が少しだけかみ合う音がした。