第二話

天界のはずれにある洞窟の中に二人の天使がいた。
ユウラとラキである。

「ユウラ、調子はどうだ」
「悪くないです。大丈夫ですよ」
「そうか」

ラキはユウラのそばに腰をおろした。ユウラは溜息をついた。

「どうした、ユウラ」
「皆、元気かなって」
「行くなよ、ユウラ。お前はまだ完全に回復してないんだから」
「わかってますよ。無理をしたら、ラキに怒られてしまいますからね」
「当たり前だろ、馬鹿」

ユウラは僅かに目を細めた。ラキの言葉遣いはもとから悪いのであるから放っておいて欲しいものなのだが、ユウラは気に入らないようだ。

「直したらどうですか」
「面倒」
「ラキ」
「そういや、下界にオレ達の姿を見ることができるやつらがいるらしいぞ」

ラキは半ば無理やりに話を変えた。ユウラは不思議そうに首をかしげている。

「なんですか、それ」
「だから、俺たちのしまわれた翼を見ることができるんだよ」
「すごいですね。人間としては持ちすぎた力でしょうか」
「だな」

ユウラはさて、とラキに向き直る。その顔には笑みが浮かんでいた。

「ラキ、話をそらさないでくださいね」
「うっ・・・・・・・・」
≪ユウラ、無駄だ。ラキの言葉遣いは元からなのだから直らん≫
「ですが・・・・・・」

ユウラは暗闇から聞こえてきた声に不満そうに返す。声は苦笑交じりに言った。

「ラキは天使ですよ、あくまで、ですが。その天使ともあろうものが悪い言葉遣いでは神の使いなどできません」
≪だそうだ、ラキ。直してみるか≫
「どっちの味方だ・・・・・・・」

ラキは溜息をついた。ユウラは既にラキの言葉遣いを直すことを諦め、先ほど彼が言っていたことを思い出した。

「ところで、その人間。その力を誰かに話しているのですか」
「なんにも。てか、知らないよ」
「へぇ」
「今のお前と俺じゃ下界にはいけないだろ。命の泉に行かないといけないし。オレ達は地獄には行けても下界で途中で降りることはできないから」
「・・・・・・・・・・・」

ラキはユウラの膝に頭を乗せて目をつぶった。
ユウラはそっとラキの前髪を払った。ダークブラウンの瞳がユウラを見つめる。
ユウラは紅の瞳を細めて笑った。

「今はゆっくりと休むことを先にしてますから。大丈夫ですよ」
「どこにも行くなよ。お前は、俺の、兄で、大事な、やつなんだから」
「わざわざ強調してくれなくて結構ですよ。大丈夫です、そんなに心配しないでください」

ラキは小さく息をついて目を閉じた。
ユウラも背後の岩壁に背を預けて、目を閉じた。そして二人とも夢も見ない深い眠りへと落ちていくのであった。