第二話

「ユリーッ!!」

ユリは幾度目になるのかわからない溜息をついて振り返った。
彼のダークブラウンの瞳は猫のように瞳孔が細い。普段は本当に細いのだが、感情が高まると丸くなることをユリは知っている。

「またゴウさんやガイのもとに?」
「ん」

ラキという名の青年は首を振った。違うらしい。

「ではどこに?」
「ユウラのとこ」
「あぁ・・・で、会えたのか?」
「いや・・・多分、ゼウスに呼ばれているんだと思う」

大神を呼び捨てにするあたりがラキらしいのだが・・・・
ユリはまた溜息をついた。それに気がついたラキは小さく笑う。
ユリの頬に手を当てて優しく笑った。

「ユリ、あんまり溜息ばっかりついていると幸せが逃げるぞ?」
「誰がつかせているんだ・・・」
「じゃぁ・・張本人が幸せをあげようか?」

ラキは悪戯っぽく笑うと、ユリに口付けた。ユリは驚いてラキを突き放そうとするが、ラキにしっかりと腕をつかまれかなわない。
息苦しくなってきたころ、ラキはやっと唇を離した。
ユリは肩で息をしながらラキをキッとにらみつけた。

「馬鹿かっ?!」
「馬鹿じゃないぜ」
「お前のようなやつが親衛隊の副隊長かと思うと腹立たしい・・・・」

そう、ラキは女神親衛隊の副隊長なのだ。親衛隊の面々に慕われているから余計に頭にくることもないのだが・・・・

「そういや、なんでオレのこと呼んだんだ?」
「女神様がお呼びだ」
「あっじゃぁ速く行こうぜ」
「誰が時間をかけたんだ、馬鹿っ!」

そんなこんなで女神の前に跪いた二人に衝撃的発言が投げつけられた。

「女神様、離宮へお下がりになるのですか」
「えぇ。少し避暑に」
「嫌な予感を覚えているのでお聞きしますが・・・・・もしや私とラキは」
「はい。お留守番をよろしくお願いします」

ユリが撃沈したことは言うまでもあるまい。
ラキはニコッと笑って女神を見た。

「わかりました。では残りの親衛隊の面々は連れて行かれるのですね」
「えぇ」
「留守はしっかりと預かります!」
「と、ガイに鏡を盗られないようにしてくださいね。ユリ、ラキの見張りをお願いします」
「・・・・・・わかりました」

女神が離宮へ去ったあとの神殿ではユリがラキに正座をさせて、淡々と注意を述べていた。
ラキは本当に面倒くさそうな様子で注意を聞いている。

「ラキ、聞いているのか」
「聞いてるよ。なぁ、それよりさぁ、神殿に行かないか?」
「神殿?何の用があるんだ」
「今度こそユウラに会いに行くんだよ」
「またユウラ殿か・・・」
「なに、ユリ妬いてくれているのか」

ユリはラキの言葉に溜息をついた。呆れて何もいえない。
なんでこいつと幼馴染をやっているのだろうと、ユリは正直そう想う。

「さっ、行こうぜ」

ユリは溜息をつくと、ラキのあとを追って歩き出したのであった。