第十三話
ルカはふらふらと歩く影に気がついた。既に月が高く上っている。
見れば、銀色の髪が月明かりを反射している。ルカの知っている限りで銀の髪を持っているのは神官であるユウラだけだ。
ルカはユウラに近寄って行った。ふらふらと危なっかしい足取りである。
「ユウラ、どうした」
腕をつかんだが、ユウラの足は止まらない。目を覗き込めば、どこか虚ろである。
ぞくっとしたものが背筋をかけおりたルカはユウラを抱きとめる。
「ユウラ、ユウラ起きろ!」
「・・・・・・・・・ファー様」
「ユウラ?」
ユウラの体からいきなり力が抜けた。ルカはユウラの体を腕に抱いて、家に戻る。
寝台に寝かせてからしばらく経つとユウラの瞼がノロノロと開いた。しばらくぼぉっとしたのち、ユウラはハッと起き上がった。
「ルカ・・・?ここは」
「私の家だ。どうかしたのか、少し様子がおかしかったが」
ユウラは額に手を当てた。そのいつもと違う様子にルカは不安になる。
寝台にゆっくりと腰掛けた。
「どうした」
「いえ・・・・・・」
ルカはユウラの髪をすく。ユウラはルカに体重を預けてきた。
「・・・・迷いごとがあるのです」
「悩み事ではないのか?」
「迷いごとなんです」
「・・・・・私に話してみないか?少しは力になれるかもしれない」
「・・・・・」
ユウラはルカを見た。その瞳の中に悲しそうな光が宿ったのをルカは見逃さなかった。
「ユウラ、何を隠している?」
「何も・・・・」
「お前はおかしいぞ?」
「えぇ。おかしいのかもしれませんね」
「・・・・」
ルカはだまってユウラから身を引いた。
「ゆっくりと休め。朝になったら起こす」
「ルカ・・・・・」
「なんだ?」
ユウラは震える声でルカに問いをした。
「"たとえなにがあったとしても貴方たちは私を友と呼んでくれますか?"」
「何を言っている。当たり前だろう?」
ルカは即座にそう答えた。ユウラは目に涙を浮かべ、腕で顔を覆い隠す。
「ありがとうございます・・・・・・ずっとその言葉を待っていた・・・・」
ルカはユウラを抱き締めた。
冷たい体にルカの熱が伝わっていく。ユウラはその熱にほっとしたのか、体の力を抜く。
「ユウラ・・・・」
「ルカ、ごめんなさい」
「何故お前が謝る」
「いいえ・・・・・・・ただ無性に謝りたかったんです」
ルカの背に腕をまわしながらユウラは言った。
こうしているだけで胸の中から何かが出て行くような気がする。
「すみません。迷惑をかけてしまいましたね」
「大丈夫だ」
「神殿に戻ります。ルカ・・・」
「また遊びに行く」
「お待ちしています」
ユウラは寝台から起き上がると、素足で冷たい床に降り立った。
「一人で大丈夫なのか」
「はい。私も伊達に上位天使をやっているわけではありませんから」
部屋を出て行こうとするユウラの腕をルカはつかんだ。ユウラは不思議そうにルカを見上げる。
「送ってゆこう。神殿の前まで」
「・・・・・・ありがとうございます」
ユウラの肩に薄布をかけてやった。ユウラはそっと首をかしげて、微笑んだ。
二人は翼を広げると夜空の中へと飛び立っていったのであった。