第十二話
「ユウラ様、お加減でもお悪いのですか」
ユウラはぼぉっとして窓の外を見ていた。パンドラがそっと手に触れると、ビクッとしてパンドラを見た。
「ユウラ様、ずっと声をかけていたのですが」
「すみません、パンドラ。それで、どうかしましたか」
「・・・ゼウス様が時折口になされる"祝福"のことに関してなのですが・・・」
「"祝福"・・・・・そうですね、それがありました」
ユウラは物憂げに溜息をつく。パンドラは不安そうな顔をした。
「ユウラ様、やはりどこかお悪いのでは?」
「違いますよ」
ユウラはそう言って微笑む。パンドラは信じていないような顔だ。
ユウラは軽く苦笑して、パンドラを見た。
「ただ疲れているだけです」
「ユウラ様、最近お休みになられていないでしょう」
きょととしたユウラの目の前にパンドラの肩のものパールが姿を見せる。
「ユウラ、眼のしたに隈ができているの、わかってる?」
「そうですか・・・・?」
「えぇ」
ユウラは自分の目元に触れた。パンドラは言う。
「ユウラ様、少し休まれてください。私たちにとってユウラ様はなくてはならないお方なんですから」
「・・・・パンドラ。ですが、あなたは私に話があったのでは?」
「えぇ。ですが、今はそのようなことをユウラ様に負担をかけるわけにはいきませんから」
パンドラはそう言ってユウラの部屋から出て行く。ルウがユウラの肩に姿を見せた。
不安そうな様子である。
「ユウラ、本当におかしいよ。どうかした?」
「いいえ・・・・ただ、苦手なことを二人連続で言われたので、動揺しているだけでしょう」
「苦手なこと・・・?」
「ルウ、私は愛を囁かれるということに臆病になっているんです。愛されていれば、その人がいなくなったとき辛くなる。ルシファー様のときもそうでした。私は、誰かに愛されることを望んではいないのです」
「ユウラ・・・・・」
「最近、夢を見るようになりました。昔の夢です。それがとても懐かしくて・・・・破滅の日以前、いつ戦いか始まるのか緊張していた時ではありましたが、私はとても幸福でした。二人の仲間が地獄へと落ちてしまいましたが、ラキから二人は封印されただけと聞いて、ほっとしましたし、それに何より・・・やっとこれで愛しい方に会えると思っていたのです」
堕天、咎められるだろう。でもそれでもユウラは会いたかったのだ。
始めて出会った、好意を寄せる天使に。
「私はあの日、やっと会えると喜んでいました。でも、四聖獣たちが負けることに気がついて、私は・・・・・母上から止められていた力を解放させてしまった。天使長よりもさらに上、十二枚の翼すべてを」
「ユウラ・・・」
「地獄からラキも慌ててやってきて、暴走した力を止めてくれました。未来は変わった。でも、彼らは皆何も覚えていない。それに、ルカもユダも戻ってきたのに、あの人だけが戻ってこない・・・・」
ぽたりとユウラの服にしみをつくったものがあった。
「二度と出会えないことを知って・・私は愛というものに臆病になってしまったのです。出会わなければ、好きにならなければこんなにも辛い思いをしなかったのに」
服のしみは次々に増えていく。ルウにそれを止める術はなかった。
「私は手に入れると同時に何もかもを失ったんです。もう、あの時は手に入らない・・・すべてを変えて、私はこの未来を望んだ」
ルウは何も言わずに姿を消す。ユウラは腕に顔をうずめて泣いていたのであった。