第十一話

ユウラが神殿に戻ってきたのを見たレイはほっとした。すぐさまユウラのそばに駆け寄り、事を伝える。
ユウラから一瞬表情が抜け落ちた。が、すぐさま他人をほっとさせるような笑みを浮かべると言った。

「わかりました。すぐに迎えに行って来ますから、シンを落ち着かせるためのお茶を淹れておいてください」
「はい」

レイがうなずいたのを見るとユウラは翼を広げ西の森へ向かう。西の森は、薬草が数多くある東の森と比べ、湖の数が多い。湖のほとりにしか咲かない薬草はここで採っている。
レイが言うにはシンがハープを奏でるために夜、一人で湖に行ってから帰ってこないという。

「何もなければよいのですが・・」

ユウラの耳が微かな旋律を捉えた。ユウラは旋律を辿り、森の中へと入っていく。しばらく飛んだところに小さな湖があった。
切り傷に良く効く薬草があるところだ。ユウラはそのほとりの大樹の根元にシンを見つけた。

「シンッ」
「ユウラ・・・・様?」
「よかった、無事だったのですね。レイが心配していましたよ、シンが湖に行ったっきり帰ってこないと」
「すみません・・・・」
「シン?なにかありましたか」

シンは俯いたまま首を振った。ユウラは不安そうな顔をしてシンを見る。
特に傷は見当たらない。だが、シンの様子がおかしいことだけは確かだ。

「シン、神殿に帰れますか」
「はい・・・・」
「レイがお茶を淹れてくれています。それを飲んだらゆっくりと休みなさい」
「はい。あの、ユウラ様」
「?」
「・・・・ご迷惑をかけてしまい、すみませんでした」

謝罪の言葉にユウラは首を振った。

「大丈夫ですよ。さぁ、お戻りなさい」

シンは神殿にむかって歩いていく。その姿を見送ってから、ユウラは大樹のほうへ目を向けた。

「ユダ、シンになにをしたのですか」
「何も。ただ、そばでハープを聞いていただけだ」

大樹の陰からユダが姿を見せる。ユウラは渋い顔をしてユダを見た。

「あまりシンをからかわないでください。あの子はまだ神官に成り立てなのですから」
「ユウラは昨晩どこにいた?」
「キラの家ですけど、何か問題でもありますか」
「いや・・・」

ユダは大樹に背を預けた。

「シンのハープを聴いていて思い出した。俺の家の近くにある泉でシンは毎夜ハープを奏でていたんだ」
「それで」
「・・・・・・・ふと思ったんだ。もしかしたら俺は、ずっと前にもこうしてシンのハープを聞いていたんじゃないかって」

ユウラの瞳に悲しげな光が宿った。一瞬だけ何かをこらえるようにうつむくと、ユダを見た。

「そうですね・・・・シンの音色はどこか懐かしく感じます」
「ユウラ・・・・?」

ユダの手がユウラの頬に触れた。そっと零れる涙を拭ってやる。
ユウラが顔をあげると不安そうな顔と目が合った。

「どうした?」
「なんでもないです」
「ユウラ・・・・」
「私は・・・」

ユウラはユダの腕の中に閉じ込められてしまう。ユウラはきょとんとしてユダを見た。

「いつもお前はそうやって背負い込む。俺たちは仲間じゃないのか、ユウラ」
「ユダ・・・・」


"俺たちは仲間だぜ、ユウラっ!"
"一人で考えすぎるなよ"
"疲れたらいつでも言ってくださいね"
"あなたのために作った曲なんです"


ユウラの瞳から涙が溢れる。

「あな、あなたたちはいつもそうやって・・・・・私のほしいことばかりを言う」
「ユウラ、オレたちはお前が好きなんだ」
「・・・・聞きたくない、あなたからのその言葉なんて・・・あなたなんか嫌い・・・」
「ユウラ・・・・」
「私は愛される価値なんてないんです!だから・・・・・放っておいて」

ユウラはそういうとユダの腕から抜け出し、神殿へと戻って行ったのであった。