第一話
ユウラは溜息をついた。その肩に白い姿をした生き物が現れる。
神官であるユウラの体の一部を切り取って作られた生き物だ。
名はルウ。
「ユウラ、どうしたの?元気ないね」
「少し憂鬱なのですよ」
ユウラはそう言って身を預けていた欄干から体を離し、白い通路を歩き始める。
ルウは不思議そうに首をかしげた。
「やっぱり自分のしたことに後悔してる?」
「まさか・・・・」
ユウラは自嘲の笑みを見せた。
美しい銀の髪が日の光を反射して煌いた。
「後悔など、私がするはずもないでしょう?」
「・・・・」
「それに・・後悔を覚えていたら私はきっとここにはいない」
「ユウラ・・・」
ルウはそっとユウラの頬に触れた。
髪と同色の瞳から涙が流れ出している。
「でも・・・こうするしか他に道はなかった。あの人のように、誰かが傷ついていなくなるのには耐えられなかったから」
ふとユウラは真正面からやってくる天使たちに気がつき、慌てて涙を拭いた。
やってくるのは神官長の地位を任されているパンドラだ。隣にいるのは新しい神官だろうか。
「ユウラ様っ」
パンドラはユウラの姿に気がつくと慌てて膝を折った。新たな神官もそうしろと教えられているのか、パンドラに習う。
ユウラは微笑みを浮かべると、神官の前に膝を着いた。
「顔をお上げなさい」
神官はユウラの言葉どおりに顔をあげる。
知的な瞳がユウラを映し出した。薄い青の髪にユウラは手を伸ばし、ふと思いとどまった。
「名は?」
「シン、と申します」
「シン・・・・」
ユウラはその名を反復し、一瞬だけ悲しそうに目を伏せた。
「パンドラ、彼の世話役は決まっているのですか」
「はい。レイを当てようかと考えております」
「十分です。では、シン・・また」
「はい」
パンドラとシンはその場から離れていく。
ユウラは悲しそうに、辛そうにその背を見送った。
その肩にルウが姿を見せる。
「ユウラ・・・・」
「大丈夫ですよ。さっ、行きましょう。ゼウス様がお待ちでしょうから・・」
ユウラはそう言ってルウの背を撫でるとゼウスの部屋へと向かったのであった。