輝津薙は動かぬ氷珱を抱き締めていた。


「氷珱・・・・」

「輝津薙、よいか」

「はい」

「お前にとっても私たちにとっても辛い。お前は神の掟を破った。それによって、お前は高天原を追放される」


月読の言葉に輝津薙は何も言わなかった。ただ、悲しげな瞳をしただけだ。


「閻羅王太子、お前に折り入って頼みがある」

「聞こう」

「この二人を禁鬼にすることは可能か」

「・・・・・父上に理由を話せば」


天照はうなずいた。輝津薙は驚いて天照の顔を見る。


「本当ならばお前の辿る道は消滅。だが・・・我ら二人、お前を喪うことには耐えられん」

「私と氷珱が?」

「あぁ」

「・・・・・氷珱、聞いた?私たち・・・・」

「だが、禁鬼となったら、息子に関与することはできんぞ」

「・・・・・それでも、あの子の様子を見ることはできるのでしょう」


輝津薙の言葉に燎琉はうなずいた。


「そのくらいなら」

「・・・・それなら十分です。兄上には本当によくしていただきました」


天照は輝津薙から顔をそらした。


「私、自分が兄上の妹であること誇りに思います」


輝津薙はそう言って微笑んだ。

綺麗な、綺麗な微笑みであった。


「あぁ、私たちも同じだよ。お前が妹であることに誇りを感じている」

「妖狐氷珱」


天照の声に氷珱は顔をあげた。


「輝津薙のことを頼んだ」

「兄上・・・・・」

「・・・・・もちろんだ」


燎琉はにこにこと笑ってその様子を見ていた。

その後輝津薙と氷珱は燎琉とともに冥府へ下って行った。


「兄上・・」

「これもまた天命・・・・我らに逆らうことはできぬ」

「えぇ・・・そうですね」



「君たちに新しい名を与えよう」


冥府で燎琉は二人にそう言った。


「焔を操る輝津薙には緋乃という名を、風を操る氷珱には弓狩の名を」

「はい」

「いずれ君たちには私以外の主がつくことになるだろう。そのときはよろしく頼むよ」


二人の禁鬼はうなずいた。

顔を仮面で隠し、閻羅王の手足となって働くことになる。

彼等が禁鬼となって約千年後、その少女に出会うまで。