「どういうことだ?」 燎琉の言葉に天照はそう聞いていた。 「二人はきっても切れない関係。切ったら、星宿が滅茶苦茶になる」 「つまりは子を殺すなということか」 「そう。小野家は冥府にとっても必要不可欠だからね」 「・・・・・・だが、その娘が子供の力に耐えられるとは思わないが」 「耐えられるよ。そこまでやわな子じゃない」 天照と月読は互いに顔を見合わせた。 二人にとって星宿が乱れることほど迷惑なことはないのである。 仕方ない。 「だが、どうしろという」 「輝津薙命の中に宿る命。我々が預かろう。娘が生まれてくるまでこちらで守る」 「・・・・・・・」 「その先は簡単。小野家の娘の中にその命を宿す」 「そんなことをしたら弱いほうが消える」 「消えない。二人とも同等の力を持つのだから」 「・・・・・・・」 月読は天照を見た。天照は目を閉じ、黙っている。 「・・・・・・・・・わかった。だが一つ条件がある」 「どうぞ」 「その娘と輝津薙の子供。我が良いと言うまで眠らせておけるか」 「・・・・・・・できないことはないだろう。しかし何故?」 「今の世では二人の命はすぐに消える。しばし待て。そいつらにとっていい環境を作り上げて見せよう」 「兄上・・・・」 燎琉は小さく笑った。 「かまわない」 月読は小さく笑って輝津薙を見た。彼女は目に涙を浮かべ、天照を見ている。 「・・・・・・兄上っ!」 飛びついてきた輝津薙の体を天照は強く抱きしめた。 輝津薙は天照の腕の中で泣きじゃくっている。 「ごめんなさ・・・・っ」 「愛してしまったものは仕方なかろう?」 「でも、私は・・・・」 「輝津薙・・・・・我が愛しい妹よ」 「兄上・・」 天照は滅多に見せることのない自愛に満ちた目を輝津薙へとむけた。 ふと、月読が氷珱のほうをむいた。 「妖狐の一族だったな」 「あぁ」 「・・・・一族が滅んだことは知っているか」 突然の月読の言葉に氷珱は愕然とした。 「・・んだって・・・・・・」 「一族は滅んだ」 「・・・・・・・嘘だ!天狐より力は弱くとも、俺たちは妖たちの中では強いはずだろう?!」 「氷珱・・・・・」 天照はゆっくりと首を振った。 「相手が九尾では話にならない」 「九尾・・・だと」 「あぁ」 「なんで九尾がここにいる。あいつらは海のむこうに・・・・」 天照につかみかかろうとした氷珱を輝津薙がとめた。 「お前を探しにきたのだ」 「他にも敵はいる。火の鳥もそうだな」 「・・・・・っっ」 氷珱は天照をにらむ。天照はじっと氷珱を見た。 しかし氷珱はすぐに天照から視線を外した。 「なんで、おれを探すんだ」 「妖狐の中でもっとも強い力を有しているからだろうな。異質なものはそれだけの力を持つ」 「オレの・・せいか」 「いや」 「おれのせいだろう。俺が生まれていたから」 「違う」 「オレのせいだっ!」 「違う。お前が生まれたのは天命。我らにも変えることを許されない運命のためだったのだ」 輝津薙はそっと氷珱を抱き締めた。氷珱はあふれ出る涙を押さえようともしなかった。 そこにいる者達に氷珱にかけてやれる言葉はなかった。