それは真冬のまだ雪がしんしんと降る日だった。


「子?」

「うん」


氷珱はびっくりした顔で、妻となった輝津薙を見た。

何もいえないのは何故だろう。

衝撃発言をした輝津薙はにこにこにこと笑っている。夫である氷珱の心中をわかっているのだろうか。


「でも・・・・・この子のこと兄上にばれたら」

「・・・・・」


時々の逢瀬で何度か交わった。

まさか子ができてしまうとは二人とも考えなかったのだ。


「高於・・・・・」

「私にどうすればいいのか、とたずねるか」

「もちろん」


輝津薙は首をかしげた。完全に頼っている。


「天照も月読もあれでいてかなり妹であるお前に入れ込んでいる。二人とも知ったら大変なことになるぞ」

「わかってる・・・・でも、この子の命を失くしたくはない」


優しい子に育ってくれる。強い子に育ってくれる。

でも、天津神、輝津薙と妖狐、氷珱の間に生まれた子だ。祝福されることはない。


「それでも生まずにはいられない」

「輝津薙・・・」


母の顔だった。

愛しそうに腹を撫でる輝津薙の横顔は・・・・・


「もし許されないのなら、私は・・・・・兄の焔で消える」


兄・・・・・軻遇突智命。輝津薙の同名の神であった。

母イザナミを生まれたときに死なせたため、その咎を負い父イザナギに殺された炎の神だ。

輝津薙の性質が炎であるのは彼に由来している。イザナギは殺した軻遇突智の力を輝津薙へと受け渡したのだ。

そして軻遇突智の焔は今、高於が持っていた。

もしも腹の子を生むことを許されないのなら、その焔で身を焼くつもりなのだ。神を殺すその白き焔で。


「死なせない。輝津薙も腹の子も・・・・俺が守る」

「氷珱・・・・うん」


恋人達の時間は長くは続かなかった。

天照、月読が気がついてしまったのである。抜け目のない兄達。隠し貫けるとは思っていなかった。


「輝津薙・・・・禁忌だというのに」

「兄上、私は好きな人と結ばれた。後悔などないわ」

「産まれてくる子のことを考えていないのか」

「えっ・・・・・」


月読は軽く溜息をついた。


「お前たち二人の子は強い力を持つ。しかし、神にも妖にも入らない。外れた存在になるのだぞ」

「私が守るわ」

「・・・・・・・・できるのか」

「・・・・・・」

「禁忌を犯すという咎を負い、そして子供を守るというのか。お前たち、行く末になにが待っているのか考えないのか」


天照の言葉に輝津薙は口元を手で覆った。

氷珱は輝津薙の体を抱き締める。


「それは言い過ぎではないかな、天照?」


涼やかな声が彼らの耳に入った。

天照の冷ややかな視線が闇に刺さる。


「お前に関係なかろう、閻羅王太子」

「いいや、関係がある。月読は星がさだまったと言った。そしてこちらに関係のある小野家の娘も」

「星がさだまったというのか。我らには関係のないこと」

「同じ時期に生まれる子供たちだ。少なからず関係し合っている」

「だからなんだという」


闇から姿を見せた閻羅王太子燎琉は微笑んだ。


「二人の子供と小野家の娘・・・・相性がいい」