氷珱はいつもと違う自分に戸惑っていた。

何故輝津薙の哀しげな笑顔に心が揺り動かされるのかわからないのだ。


「・・・・変だ」


貴船の奥、高於に許可を貰って(苦労した)住処に戻ってきた氷珱は人の姿をとった。

そこには数多くの秘石があった。

氷珱が各地から見つけ出してきた色とりどりの宝石がある。

翡翠、瑪瑙、紅珊瑚、金剛石、名の知られていない石がほとんどだが・・・


「・・・・・・何をやったら女は喜ぶんだ?」


氷珱はマジメに悩んだ。

なにをあげてよいものやらさっぱりである。

やがて青磁色のそれを見つけた。氷珱でも名の知らぬ石であった。

誰かが削ったのか、丸みを帯び、小さな穴を開ければ装飾品になりそうである。


「・・・・・あいつの瞳と同じ色だな」


氷珱は軽く笑うとその青磁色をした石に小さな穴を開けた。

そこに真珠色の紐を通す。

輝津薙のことを想いながら・・・・・



「・・・高於、氷珱は」

「出かけている。何、いつものことだ。心配要らない」

「・・・・・・」

「どうした」

「いえ、別に・・・・」


輝津薙は胸の前で握り締めた手をさらに強く握った。


「それは?」

「えっ・・・あぁ、氷珱へ渡そうと思って」

「氷珱へ?」

「うん」


手の中にあるのは透明な水晶。

高於はそれに気がつくとふっと笑った。どうやら二人は似たもの同士のようだ。

輝津薙が高於の膝で眠っていると氷珱が戻ってきた。高於の膝で眠っている輝津薙を見ると度肝を抜かれたようである。

口をパクパクとさせて指差している。口を開閉させているのに言葉は一つも出てこない。よほど混乱しているらしい。


「お前をたずねてきたぞ」

「・・・・・・」

「ん・・・」


輝津薙は騒がしさに目を開けた。

氷珱を見ると顔を輝かせた。


「氷珱!」

「あっなに・・・・」

「これっ!!」


輝津薙が差し出したものを見て、氷珱は目を丸くする。

水晶を勾玉の形に削り、緋色の紐を通したものだった。


「本当は銀色の勾玉が欲しかったんだけど・・・・・これくらいしかなくて。あなたにあげるわ」

「・・・・・ありがと。あっそれと俺も」


氷珱は青磁の石を取り出すと輝津薙の手に乗せた。


「お守り」

「・・・・私がもらっていいの?」

「お前のためにつくったやつだから」

「・・・・・ありがとう」


輝津薙は嬉しそうに笑った。

その笑顔を見て氷珱も嬉しそうに笑った。


「でもなんで私に?」

「えっ・・・・」


氷珱は輝津薙の言葉を聞くと硬直した。


「なんで私にくれたの?」

「・・・・・それは」

「なんで?」

「・・・・お前はなんでだよ。この水晶・・・・混ざりものが一つもないじゃないか」

「・・・・・・・・氷珱が好きだからだよ」

「っ/////」


氷珱は闇でもわかるほどに真っ赤になった。

高於が低く笑う。


「高於!!」

「素直だからな、輝津薙は」

「あのなぁ・・・」

「お前はどうなのだ、氷珱」

「・・・・・・・好きだよ、好きです。輝津薙のことが好きだ。これで満足か?」

「氷珱・・・」

「お前が好きだ」


輝津津は笑って、氷珱に抱きついた。

氷珱は慌てて足を踏ん張る。氷珱の腕の中で輝津薙は嬉しそうに笑っている。

氷珱も軽く笑うと輝津薙を抱き締めた。


「愛してる、輝津薙・・・・」

「私も」



ほら、あんなに星がきれい。
でも、私たちにあの星を見る権利なんてないわ。
だって、約束を破ってしまったんですもの。
約束を破って穢れてしまった私たちに、あの輝く星を見る価値はないの。